1952年11月、マーシャル諸島のエニウェトク環礁で、アメリカは人類初の水爆実験を行った(画像はwikipedia)。

《本記事のポイント》

  • 太平洋の海で水爆実験すれば、近くの海洋生物は全滅する
  • 宇宙で水爆実験すれば、人工衛星や宇宙飛行士に被害が出る
  • 日本近海で水爆実験すれば、漁船に被害が出て、本土にも放射線物質が

米PBSニュースアワー電子版に、「北朝鮮の水爆は太平洋と宇宙ステーションにいかなる被害をもたらすか」という記事が掲載されました(9月30日付)。

この記事では、さまざまな科学者の証言を元に、「太平洋の海面下で水爆実験を行った場合」と「大気中で水爆実験が行われた場合」の被害予想が紹介されています。

北朝鮮の李容浩外相は9月下旬、太平洋上で「かつてない規模の水爆実験」を行う可能性を示唆しています。もし本当に北朝鮮が、太平洋上や宇宙空間、あるいは日本近海で水爆実験を実施したら、どのような被害が出てしまうのでしょうか。

ケース(1) 太平洋の海面下で水爆実験を行った場合

PBSの記事によると、太平洋の海面下で水爆実験が行われた場合、高温ガスの爆発と衝撃波で、近くのすべての海洋生物は全滅するといいます。

放射線の影響はどうなのでしょうか。そもそも水爆は、原子爆弾より威力は大きいですが、放射線の排出量は少ない爆弾です。そのため、海洋化学者のニコラス・フィッシャー博士は、仮に太平洋で水爆が爆発しても、1960年代に行われた核実験で放出された放射線より、少ない量しか放出されないと指摘します。

しかも、放射線が残留しても、海水や海流で薄まるため、海洋生物に大きな被害をもたらさないと言います。また残留した放射線の濃度は、自然にある放射線と比較しても薄いものです(ちなみに、バナナも放射線を放出しています)。

しかし、放射能の被害がないわけではありません。海洋化学者のケン・ビュッセラー博士は「放射能はにおったり、感じたり、味わったりできないので、たとえ少量でも食べ物に入っていると思えば、恐怖を感じます」と指摘しています。福島第一原発事故の時も、風評被害が世界に広がりました。同じような世界規模のパニックが起こり得るでしょう。

またビュッセラー博士は、北朝鮮が太平洋に向け、水素爆弾を装着したミサイルを発射しても、失敗する可能性があると指摘します。そうであるならば、日本の上空で水爆が爆発する可能性もあるでしょう。

ケース(2) 宇宙空間で水爆実験が行われた場合

またPBSの記事によると、宇宙空間で水爆が爆発した場合は、人工衛星や宇宙ステーションの宇宙飛行士に被害が及びます。

宇宙兵器や弾道ミサイルの専門家である物理学者ローラ・グレゴ博士は、「水爆からのX線やガンマ線が衛星に当たって電磁波を発生させ、それが電子機器を焼損させ、荷電粒子が鏡面コーティングを損傷する可能性があります」と指摘しています。

グレゴ博士は、高高度で爆発があれば、5~20パーセントの人工衛星が焼損し、その後数年にわたって他の衛星にも影響が出ると予想しています。

さらに、電磁パルスが発生して地上の電子機器が破壊され、電気やガス、水道などの各種インフラが停止してしまう恐れもあります。

ケース(3) 日本近海で水爆実験が行われた場合

では、日本近海で水爆実験を実施した場合、どのような被害があるのでしょうか。

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ未来創造学部で国際政治学を教える河田成治氏は、「日本海は豊かな漁場で航路がたくさんあり、多くの漁船が通っていますので、どこに水爆が落ちても被害が出るでしょう。また、偏西風があるので、日本海(西)で爆発すると、放射性物質が本土(東)に流れてきてしまいます」と語ります。

水爆の爆発で発生するキノコ雲の中には、ストロンチウム90という放射性物質が含まれ、これが骨から吸収され、ガンや白血病を引き起こします。1954年にビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験でも、130km以上離れた場所で操業していた第五福竜丸の船員がストロンチウム90を浴びてしまいました。

水爆の場合、放射性物質が海水に溶け込んで魚に濃縮され、それを摂取した人間が被ばくする可能性があると言います。

北朝鮮は、実際にどのような実験をする可能性が高いのでしょうか。北朝鮮は、ミサイルを大気圏内に再突入させる耐熱技術を確立していないと言われています。

そのため、河田氏は「再突入技術がない北朝鮮にとっては、宇宙空間の方がやりやすいのかもしれません。宇宙空間で爆発すると、電磁パルスが発生し、電子機器は一発で壊れます。対策をほとんど取っていない日本では、最悪の被害が出るでしょう。ただし、北朝鮮にとってメリットはない気がしますが……」と指摘します。

北朝鮮は、恐ろしい水爆実験をいつ行ってもおかしくない状況です。日本は、北朝鮮に水爆を使わせない体制を早急に整える必要があります。

(山本泉)

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