福井県の高速増殖原型炉「もんじゅ」。
2017年2月号記事
未来産業のたまご
第11回
なぜ、研究者は諦めないのか
燃料を増やし続ける「夢の発電所」
「夢の原子炉」と呼ばれた高速増殖炉「もんじゅ」が廃炉になる見通しだ。
もんじゅの夢は破れてしまったのか──。
高速増殖炉の開発を行う日本原子力研究開発機構に聞いた。
原子力研究開発機構の中村博文氏。
写真提供:国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
「高速増殖炉の目的は、純国産の技術でエネルギーを生み出すことです。高速炉の中で燃やした燃料以上の燃料をつくって、それを取り出して、燃やしてまた燃料にするという、クルッと回るサイクル(下図)。この技術を開発することは、私たちの子孫のためにも大事なことです」
日本原子力研究開発機構で高速炉の開発に携わってきた中村博文氏は、こう力を込める。
2種類の原発の組み合わせで燃料を有効に使う計画
現在、日本で使われている軽水炉
- (1)燃料のウラン235に中性子がぶつかる。
- (2)核分裂すると熱が生まれ、同時に中性子が2~3個飛び出す。熱は発電に使われる。
- (3)中性子は水によって減速して1個だけになり、別のウラン235にぶつかって連鎖反応を起こす。
核廃棄物のウラン238に中性子が当たると高速増殖炉の燃料・プルトニウム239になる
高速増殖炉
- (1)燃料のプルトニウム239に中性子がぶつかる。
- (2)核分裂すると熱が生まれ、同時に中性子が2~3個飛び出す。熱は発電に使われる。
- (3)中性子は高速のまま3個とも別の原子核にぶつかる。
- (4)プルトニウム239は核分裂を起こして連鎖反応、ウラン238はプルトニウム239に変化、放射性元素は非放射性元素に変化する。
日本にこそ必要な技術
現在、日本の電力は主に火力発電で賄われているが、燃料の石油や天然ガスは海外からの輸入に頼っている。2014年度の電源の輸入依存度は88%で、第一次石油ショック時の76%を上回る危機的な状況だ。現在の日本の原発はすべて軽水炉だが、燃料となるウランは日本では採れない。
一方、開発中の高速増殖炉は、今は「核のゴミ」にするしかない使用済み核燃料を燃料として使う。また、軽水炉で燃料として使用できるのは採掘されたウランのたった0・7パーセント。それ以外の大量のウランは廃棄物になっている。もんじゅでは、これを燃料に変えられるので、本格的に高速炉サイクルが始まれば、原子力発電については半永久的に輸入に頼らなくて済む(下図)。
第二次大戦で日本がアメリカとの戦争に突入したのは、石油の輸入が止められたからだ。現在も、中国が南シナ海に軍事施設を建設しており、日本に原油を運ぶタンカーが止められる危険は迫っている。日本の命運を握っているのは、この技術だと言っても過言ではない。
しかも、ウラン以外の放射性廃棄物も燃料として使い、最後は放射線を出さない物質に変えられるものもある。
資源の輸入依存と、増え続ける核廃棄物。日本が国家として抱えるこれらの問題を、一気に解決してしまうのが、高速増殖炉なのだ。まさに国を挙げて開発していくべき技術だろう。
もんじゅは技術を確認するための炉
高速増殖炉の開発ステップ
実験炉
高速増殖炉の原理を確認
・炉心の基本的な性能を確認
・ナトリウム機器の運転特性を確認など
常陽(日本)、CEFR(中国)
↓
原型炉
発電炉としての技術を確認
・炉心などの設計を行い、発電プラント建設を行う
・炉心の性能を検証
・ナトリウム機器の設計技術を検証
もんじゅ(日本)、PFBR(インド)
↓
実証炉
商業化に向け性能やコストを確認
アストリッド(フランス)、BN-800(ロシア)
↓
実用炉
商業用に発電