講演する評論家の黄文雄氏。
黄 文雄
プロフィール
(こうぶんゆう)1938年台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院西洋経済史修士課程修了。1966年より雑誌編集などを経て執筆活動に入る。著書は『捏造された昭和史』『韓国は日本人がつくった』『中華帝国の興亡』『なぜ中国人・韓国人は「反日」を叫ぶのか』『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』『蔡英文が台湾を変える』など多数。
「現代の松下村塾」として、新たな未来の創造を目指す、千葉県長生村にある本格私学「ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)」で、10月下旬、学園祭「HSU祭」が開かれた。
ディベート大会や研究発表、舞台劇やダンス発表など、さまざまな催しが行われ、地域の人々や高校・大学生など、数多くの来場者が詰めかけた。
特に盛況だったのが、評論家の黄文雄氏の特別講演会「中国人・韓国人・日本人 国民性の違い なぜこんなに違うのか」。会場を埋めた参加者は、熱心に耳を傾けた。
本欄では、2回にわたってその講演の要約を紹介する。今回はその前編。
黄文雄氏: みなさまこんにちは。私は、台湾出身の中で、最年長に近い日本国籍の持ち主です。小学1年生まで、台湾で日本語教育を受けていまして、1964年の正月に日本にまいりまして、今年で満53年になります。
物書きというよりも、新聞や雑誌の編集者として、約40年、仕事を続けてきました。新聞や雑誌の仕事を離れて、個人事務所を立ち上げて、物書きとして書き始めたのは10年前です。
私は2014年まで、バルカン半島からルーマニア、ブルガリアまで、合計地球40周分くらい回りました。2012年に、『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間文庫)という本も出したのですが、著書に書いていないものを中心に、私が50年間以上にわたって、日本で暮らしながら見てきた日本人と中国人と韓国人の違いについて、お話ししたいと思います。
アジアにおいて多様性を考えるべき
黄氏の講演に聞き入る参加者。
明治時代の思想家・岡倉天心は、最初の著書『東洋の理想』の冒頭で、「アジアは一つ」と掲げたことで有名です。一方、福沢諭吉は、「脱亜入欧」で、2人の考えは全く逆ですね。
私個人としては、岡倉天心の主張は受け入れがたいものがあります。なぜかというと、中近東(西アジアと北東アフリカ)はイスラム系なんですね。シーア派であろうと、スンニ派であろうと、イスラム教徒です。インドは、統計では8~9億人くらいがヒンドゥ教徒なんですね。同じ東アジアを見ても、日本だけが仏教国家で、中国と韓国は儒教国家として残っています。宗教に限らず、民族もかなり違います。アジアは一つではないですね。
具体的に、中国には少数民族が全部で50もいます。ほぼ日本と同じ大きさのベトナムも、50以上の民族がいます。ミャンマーはさらに多く、諸説ありますが、130以上の民族がいて、フィリピンは180以上、インドネシアは380以上いるそうです。
一つの国に限定しても、民族も宗教も違います。そう考えると、アジアは一つと考えるのではなく、多様性について考えるべきだと思います。「アジアは一つ」と考えることは、すべての物事の考えを一元化する恐れがあり、私は好きではありません。
多様な価値観を認めることが民主主義につながる
多様性は、民主主義につながるものです。特に世界は多元化している傾向があるのに、全てを一元化してしまうのはどうかと思います。一元化された国家が理想国家かというと、それは違うと思います。
一元化は、独裁国家の基本的な方針で、中国の体制がまさにそうなんですね。全てを1つにするという考え、コスモポリタン(世界主義)的な考えが広がっていて、現在も続いています。
中国が社会主義国家になった理由は、儒教が社会主義思想と少し似ているところがあるからではないでしょうか。中国は、儒教の教えを一つの理想としてきました。ユートピア世界は天上ではなくて、地上にあるという考えは、実は社会主義に通ずるものがあり、最も似ているのは、コスモポリタンです。
私は宗教を否定するつもりはありませんが、宗教を信じる方はコスモポリタン的な考えが強く、これが社会主義につながるわけですね。
ただ、できるかぎり国を大きくしたいと考えたのは、中国や韓国、日本も、ヨーロッパも、チェコスロバキア、ユーゴスラビアも、オーストリアも同じで、これは、20世紀の大きな流れでした。
特に中国は、昔から左翼の共産主義でしたが、トウ小平から習近平の時代に変わると、左翼から右翼に変わっていきました。実は、左翼も右翼も全体主義なんです。英語でいえば、トータリズムです。ようするに、「地球人類は宇宙人も地球人もみんな兄弟」という、コスモポリタン的な考えが強い訳です。
90年代に入り、社会主義体制が崩壊してから、グローバリズムの流れが強くなりました。現在は、グローバリズムから徐々にナショナリズムの傾向が強まっています。
世の中が21世紀から22世紀にかけて、どのように変わっていくか。私の個人的な考えでは、基本的には、ユニークな文化と普遍性を持つ文明との対立が、一つの軸になると考えています。(続く)
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