アメリカの司法省は、連邦捜査局(FBI)が、昨年12月にカリフォルニア州で起きたテロ事件の容疑者が所持していたiPhoneのロック解除に成功したと、このほど公表した。
事件の究明を図る司法省は、製造元のアップルに対し、容疑者が持つiPhoneのロック解除を要請。だがアップルは、「プライバシーの保護」を理由に拒否したことで、法廷闘争に発展していた。「企業 対 国家権力」の様相を呈した争いは、アメリカ世論をも巻き込んだが、FBIは、第三者の協力を得て解除に成功したため、裁判の申し立て自体を取り下げた。
日系企業が解除に協力か?
アップルは、ロックを解除させるプログラムをつくれば、他のユーザーにも影響を及ぼし、セキュリティーが脆弱になると主張。また、中国のような強権的な政府にも、強制的に協力させられる前例をつくるという懸念を抱いていた。
FBIに協力した第三者は特定されていないが、ロイター通信は、「協力している企業は、通信機器などを手掛けるサン電子(愛知県)の子会社であり、イスラエルの企業であるセレブライトである」と報じている。セレブライトは、サン電子が2007年に買収した企業で、犯罪捜査用システムを製造し、世界中の軍や警察機関などに製品を納入している。
「サイバーセキュリティー大国」イスラエル
セレブライトがあるイスラエルでは、イスラエル国防軍が長年、イランやエジプトなどから国を守るために、情報収集のエリート部隊「8200部隊」を組織し、サイバー対策に注力してきた。近年では、軍でノウハウを得た退役軍人が、民間会社を起業するラッシュが起きており、今やその数は400を超える。
世界各国は現在、人工知能や自動運転車などに力を入れ、ますます電子機器に依存しようとしている。だがその一方で、一企業や一個人の力であっても、サイバー攻撃によって国家の安全保障を揺るがす事態を起こしかねないリスクも高まっている。
今回のロック解除問題は、「国家と企業がどのような関わりを持つべきか」という哲学を問うている。中国のような国に対しては、民間企業が独裁国家の増長を防ぐ防波堤になるべきであろう。
それと同時に、サイバー対策の必要性も、合わせて浮き彫りにした。パソコンさえあれば、ミサイルや組織力がなくても、国家の生命線を断つことができる。個人情報の流出事件が絶えない「サイバー後進国」日本は、「血が流れない戦場の脅威」に目を向け、対策を急がなければならない。
(山本慧)
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