日本の伝統である「織物」と「最先端技術」の融合が進んでいる。
東京都八王子市の織物工場が、米IT大手企業のグーグルと共同でハイテク繊維を開発したことを、このほど読売新聞が伝えた。
ICチップを生地に取り付けることで、生地がタッチパネルのような機能を持つ。生地に触れるだけで電話をかける、といった使い方が想定されており、ジーンズのリーバイスによって、今年中に商品化される予定だ。
導電性のある糸を織り込んだ「スマート繊維」を開発したのは、国指定の伝統工芸品「多摩織」を手掛ける、創業103年、従業員7人の「澤井織物工業」だ。長らく導電性のある糸は切れやすいという欠点があったが、日本の伝統的な「組みひも構造」を応用することで、細くても丈夫な糸を作り、生地にすることに成功した。自宅での洗濯にも耐えられるという。
海外へ挑戦する繊維産業
この繊維がどういった市場を作り出すかは未知数だが、技術力の高い日本製品の将来性を表して余りある事例だと言える。
国際的に高い評価を受けている日本の繊維事業(糸メーカー)の高機能繊維は、TPPの発効で域内先進国への輸出がしやすくなると考えられる。「TPP域内で、製糸から縫製まで手掛ける」という条件を満たせば、輸出の際に米国で0.5~32%、カナダで6~18%かかっていた関税がなくなるためだ。
また、グローバルな視点では繊維産業は拡大すると見られている。繊維の一人当たり消費量は、一人当たりGDPが増えると増加するからだ。特に途上国が発展していく立ち上がり期にその傾向が顕著であり、現在成長が著しいのは、タイ、インドネシア、マレーシアなどである。これから成長してくる新興国が買いたくなるような高品質な製品を作り続けることも求められる。
伝統産業のイノベーションで一層の発展を
繊維業界は、高付加価値で新たな市場を獲得する道と、成長が見込まれる海外市場で優位な地位を獲得する道が開けていると言える。どちらの道にも一層の企業努力が必要となることに変わりはない。だが日本の繊維は、先述の通り質の良さで国際的競争力のある製品も多い。
過去においても、繊維業は日本経済を支えてきた。明治期には、上質な絹を生産し、日本の近代化を支えた。日本神話では、天照大神が機織りをしていた記述があるなど、御神事につながる産業である。
日本の伝統ある繊維産業がイノベーションを遂げ、日本の新たな成長産業となることが期待される。
(HS政経塾 表奈就子)
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