国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産について、韓国政府は2016年の国内候補として、日韓併合下での「強制動員」を示す資料をその一つに挙げている。
韓国政府が正式に申請すれば、日本との関係悪化は明白だ。にもかかわらず、検討が進められているのは、日本が今夏に世界文化遺産として登録した「明治日本の産業革命遺産」に対する対抗措置と見られる。
朝鮮総督府「病気にかからないで働くよう祈る」
KBSが13日に報じた「朝鮮総督府の手紙」。
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そうした中、韓国放送公社(KBS)は、「強制動員」の資料として、日本が「日中戦争」を戦っていた1941(昭和16)年10月1日に、朝鮮総督府が朝鮮人労働者に宛てた手紙を紹介している(13日付電子版)。
だが、その資料をよく見れば、とても「強制動員」とは言い難いものだ。問題の資料は以下の通り。
「契約期間が終る頃となりましたが、此(こ)の戦争が続く限り石炭や鉱石が澤山(たくさん)必要でありますから、どうしても帰鮮(きせん)せねばならぬ特別の事情の無い限り再契約をして引続いて働く決心をして頂きたいと思ひます。
その契約は三年でも、五年でも長い方がよいのです。早く家族を呼寄せて今の仕事を続ける事が立派な皇國臣民であります。諸君は寮や職場の人と仲よくし、警察署や協和會(きょうわかい)、会社の人の指導を良く聞くやうにし、また新らしくそちらへ行った方は先輩の教へにも克(よ)く従ひ、皆と共に、立派な皇國臣民となって楽しく仕事に勢を出す様に心掛けて下さい。
之(これ)からは段々寒くなりますから身体に注意して、怪我や病気に罹(かか)らないで働くやうに御祈りして居ります。
昭和十六年十月一日 朝鮮総督府 産業戦士諸君」
"強制"なのに、契約期間という表現があったり、「ケガや病気にかからないで働くようにお祈りしている」とあるなど、悪質性や人権侵害をうかがわせるものではない。これが「強制動員」の証拠になるなら、現在も多くの労働者が、"強制労働の犠牲者"ではないか。また、1941年と言えば、朝鮮人への勤労動員が適用される1944年9月の前のこと。韓国側は、勤労動員とは無関係の資料をこじつけている可能性もある。
「河野談話」と同じ構図か?
日本は先の世界文化遺産の審査の場で、「forced to work(労働を強いられた)」という表現を使って、「明治日本の産業革命遺産」登録に反対する韓国をなだめた。だが、強制性を証明できていない今回の例を見れば、日本は、どのような根拠でそのフレーズを盛り込んだのか。
この疑念は、公的な場で検証する必要がある。もし、日本が韓国との妥協を優先したことが判明すれば、証拠がないのに、慰安婦の強制連行を事実上認めた「河野談話」と同じになる。
ユネスコ記憶遺産をめぐっては、中国が現在、「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」に関する資料を申請している。本誌・本欄ではこれまで、その資料の問題点を指摘してきたものの、いまだに日本政府の腰は重い。日本は今こそ、中韓が仕掛けている「歴史戦」に反論しなければならない。(山本慧)
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