《本記事のポイント》

  • 近年、中国の宇宙開発が目覚ましい
  • 米議会の諮問委員会で、宇宙防衛の重要性が訴えられた
  • 日本の大学や研究機関でも、宇宙防衛技術の開発をしっかりと行うべき

中国の目を見張るような宇宙開発の進展に、アメリカは強い危機感を示しています。

米議会の諮問委員会である米中経済安全保障調査委員会(USCC)の公聴会が、4月25日に開催され、中国の宇宙開発の現状についてさまざまな発表が行われました。

中国は過去20年間、有人飛行を行い、2つの宇宙ステーションを運用してきました。2018年には、北斗(ベイドゥ)と呼ばれる中国独自の衛星測位システムの運用を開始し、世界中のユーザーに高精度のナビゲーションサービスを提供しています。

また中国は人工衛星の打ち上げにも積極的です。昨年の人工衛星の打ち上げ数は、アメリカが34基、ロシアは19基だったのに対し、中国は38基で世界最多でした。さらに今年1月、世界で初めて月の裏側へのローバーの着陸を成功させています。

これらの中国の宇宙計画は、一概に軍事目的であるとは言えませんが、軍事に応用可能なものも多くあります。

中国の宇宙開発には、軍事的な意図が含まれている

USCCの委員長であるキャロライン・バーソロミュー氏は公聴会の初めに、「北斗には、『一帯一路』の参加国に対する中国の影響力を強め、アメリカによって運用されているGPSシステムへの各国の依存を減らす狙いがある」と指摘しました。

また、上級担当アナリストのナムラタ・ゴスワミ博士は、「(中国には)月を植民地化し、宇宙における規範や規則をつくろうという野心がある」と警鐘を鳴らしました。

同氏は、中国の野心は「数兆ドル規模の宇宙産業を創ること」のみならず「最終的に宇宙で軍事力を行使することが目的である」という趣旨のことを述べました。

さらに、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)上席研究員であるトッド・ハリソン氏は、「最も懸念すべきは、中国が進めている『対宇宙計画』である」と指摘しました。

「対宇宙計画」とは、敵国の人工衛星などの宇宙システムを邪魔したり、破壊したりする計画のことです。実際に中国は2006年、アメリカの画像衛星に対し、レーザー照射を行いました。多くの人々の生活に欠かせない人工衛星が破壊されれば、国の安全保障や経済に大きなダメージを与えます。

しかも、中国の宇宙技術の開発スピードは、アメリカの宇宙防衛システムの開発スピードを上回っているといいます。

ハリソン氏は、「これは負けることができない競争であり、脆弱性が侵略を招くことになるため、少なくとも部分的には、これは私たちが招いた状況だ」とし、「私の提言の中心は、宇宙に関しては中国へのアプローチを再考する必要があるということ」と主張しました。

宇宙開発における中国の急成長は、中国の民間企業と軍の協力によるところが大きいと言われています。

ジョージタウン大学ジョージタウンセンターの客員研究員ローランド・ラスキー氏は、「中国は、民間と軍事が協力し、安価な価格でサービスを提供することで、小型人工衛星関連のマーケットを広げている」という趣旨のことを述べています。

同氏は、アメリカの技術を守りつつ、米企業が中国企業に対する競争力を持つためには、技術輸出の規制緩和、重要技術の保護、官民連携のさらなる強化が必要だと主張しました。

日本は、軍事技術に対する意識改革が必要

このようにトランプ政権下にあるアメリカは、中国の宇宙開発に対し、真剣に対策しようとしています。一方、宇宙技術に関わる日本の学会では、いまだに安全保障に関する意識が薄く、軍事はタブー視されています。

ハイパースペクトルカメラを用いた小型衛星からの海上監視技術について、研究しているハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来産業学部アドバンストコースの伊藤隆晃さんは、国内外での学会発表の経験から、こう語ります。

「日本には、防衛技術に関わる発表ができる学会はありません。しかし海外の学会では、防衛技術の開発に関して、強い熱意を感じました」

日本には高い技術力がありますが、「防衛技術」については、他国に頼ってばかりです。日本も中国の脅威をきちんと認識し、自国を守ることができるよう、宇宙防衛技術の開発を進めていく必要があります。

(久村晃司)

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