漫画『お前はまだグンマを知らない』作者インタビュー ディープなグンマ愛を語る

漫画『お前はまだグンマを知らない』作者インタビュー ディープなグンマ愛を語る

漫画家

井田 ヒロト

 

(いだ・ひろと) 群馬県高崎市在住。2013年10月より、『月刊コミック@パンチ』のウェブコミック配信サイト『くらげパンチ』で『お前はまだグンマを知らない』の連載を開始。井坂幸太郎氏による小説『グラス・ホッパー』の漫画化も担当した。

 

 

数多くあるご当地漫画の中でも、異色の人気を誇るのが『お前はまだグンマを知らない』だ。累計発行部数は70万部を突破。ドラマ化、実写映画化に続き、アニメ化もされた。

 

チバ県からグンマ県に引っ越してきた主人公が、同級生や地元民から強烈な洗礼を受けながら、グンマ愛に目覚めていくというストーリーで、近隣のトチギ県民やイバラキ県民との抗争も、ディープなグンマ愛で乗り越える。地元書店で平積みされるのはもちろん、県立図書館でも貸出され、群馬を代表する作品と言える。

 

本誌2018年11月号に掲載された、作者・井田ヒロト氏へのインタビューのロング版を掲載する。

 

◆             ◆            ◆

 

――本作品を描き始めたきっかけをお聞かせください。

井田ヒロト氏(以下、井): もともと、自分の住む群馬のすごいところを漫画で紹介したいと考えていました。直接のきっかけになったのは、東日本大震災です。震災後、日本全体に故郷や家族の大切さを考え直す風潮が生まれ、それに押される形で企画をつくり始めました。

 

 

――ご自身も中学1年の時、主人公のように群馬に引っ越されました。

井: 人生で初めて群馬に行ったのは小学校5年生の時だったんです。その時も、いろんなことがショックと言うか、「うわ、全然違う」と驚きました。ただ、その時は群馬に行ったというより父親の実家に行ったので、単に父の実家が変わってるんだと思っていました。

 

例えば、お茶の時間と称してやたらと色んな食べ物が出てくるんです。あと、千葉に住んでいた時は、穏やかでおっとりした人が多かったんですが、群馬に来たら、みんな話してる言葉がきつくて(笑)。方言ですね。言葉使いが荒っぽいので、みんなヤンキーじゃないかって思ってました(笑)。

 

でも、群馬に引っ越してきて、「父の実家が変わってるんじゃない、群馬が変わってるんだ」と気がついたんです。

 

 

――戸惑いがグンマ愛に変わったのはいつごろでしょうか。

井: やっぱり、友達ができ始めると群馬になじんできました。初めて自分の中の愛郷心を意識したのは、中1の夏休みです。

 

横浜から来た転校生が同じ塾に入ってきたんですが、その子が「群馬、超田舎でなんもねえ。カラオケもなくてびっくりした」みたいなことを言っているのを聞いて、ものすごい殺意を感じたんです(笑)。ある種の"敵"みたいなものが現れた時に、初めて、自分の中に愛郷心のようなものがあったのだと意識したと言いますか……。けなされて初めて群馬好きって思いました。

 

 

――引っ越して1年も経たないうちに、グンマ愛が芽生えていたのですね。

井: そうですね。春に引っ越して、夏までには好きになっていた感じですね。

 

 

――群馬は、2016年まで「都道府県魅力度ランキング」で、茨城と最下位を争っていました。

井: いやあ、群馬はもともと中山道の宿場町がいっぱいあったところで、道を中心に発展した県なので、東京にすごく行きやすいんですよね。東京から人もやってくるし、他の新潟とか北の方からも人が行き交うし。だから、地元のいいものを意識するよりも、すぐに行ける東京の方に目線がいって、比較してちょっと自己卑下してしまうところがあります。そんなところが魅力度ランキングには影響しているのかなあとは思いますね。

 

 

――最下位を争っていた茨城については。

井: 茨城って、製造品出荷額も農産物出荷額も全国でトップクラスなんですよ。関東地方の中でも珍しいほど大きな平地が広がっていて。日立もありますし。だから、全然悪くない。むしろ、群馬から見ると、そこめちゃくちゃ誇っていいでしょって思います。

 

ただ、他の地域から来た人が多いので、茨城県民として自分たちを顧みる機会がなかなかないのかもしれませんね。「茨城県」としては、少しまとまりがないような印象があります。

 

 

――他県に発信したい群馬の魅力は、どのようなところですか。

井: 実は、群馬について詳しく調べるようになったきっかけは、山口県・萩の松下村塾を訪れたことなんです。それまでも、群馬のことは漠然と興味はあったし、漫画にしようとは思っていたんですけれども、本当に群馬の中身がすごいんだって再認識したのは、松下村塾からの流れが大きかったですね。

 

友人が伊藤博文と井上馨が好きで、「萩に旅行に行くんだけど一緒に行かないか」と誘ってくれて。それまでは漠然としか松下村塾について知らなかったんですけども、実際に萩に行って、すごい好きになって帰って来ました。

 

萩の方って本当に松下村塾が大好きじゃないですか。萩で泊まったホテルの部屋にも、松下村塾についての本がいっぱい置いてありました。外国のホテルとか行くと、机の引き出しの中に聖書が入っていますが、あのノリで置いてあるんですよね。ここの聖典だから読め、みたいな(笑)。そういう本に目を通していると、やっぱり本当にすごいところだったんだなって感銘を受けて、群馬に戻ってからも松下村塾について調べていました。

 

すると、群馬に行きついたんです。松陰先生が塾の後任を託したのが、後に群馬の初代県令を務める楫取素彦(かとり・もとひこ)でした。楫取は、松陰先生の妹・文と結婚した人物でもあります。

 

松陰先生の影響で、萩には人づくりをしようと思った時に教育から始めるという風土がありますが、楫取が初代県令になって最初に着手したのも教育改革でした。なので、群馬には、県が大変なことになった時には教育から変えようとする考え方が根づいています。松陰先生の精神は、群馬にも流れていたんですね。

 

自分の漫画にも出てくる群馬の郷土かるた「上毛(じょうもう)かるた」も、終戦直後に教育を目的につくられました。戦争で荒廃した故郷を建て直すために、かるたを使って子供たちに郷土のことを伝えようとしたんです。

 

教育からすべてが始まるという群馬の考え方は、現代の日本に見習ってほしいですね!

 

そこを声高に言いたいんですけど、そうすると、「いつまで上毛かるた描いてるんですか。さっさと終わらせてください」って言われて(笑)。まだ言いたいことがいっぱいあるのに、と思いながら終わりました。

 

 

――作品の中で、GHQの検閲をかい潜りながら、かるたを完成させたくだりは感動的でした。

井: そうですね。上毛かるた一つとっても、言いたいことが本当にいっぱいあるんですが、それだけ描くと漫画としては面白くなくなってしまうので……。そこらへんの兼ね合いがいつも難しいですね。担当さんにも、「こういうのが描きたい! 描きたい!」っていろんなネタを見せても、「もうGHQネタは要らないです」って言われるんで(笑)。そうか、自分そんなに描いてたかと思って反省しますね。

 

 

――群馬の素晴らしさを確信しているからこそ、あれだけの熱量がこもった漫画を描けるのですね。

井: いやあ、本当はもっと軽い作品になるはずだったんですが……。群馬の美味しいものとか、こういう楽しい施設があるよとか。

 

どうしても、作者の考えがキャラクターに投影されるもので、言いたいことをキャラクターに好きなだけ言わせていると、熱の入り様がおかしくなっていく(笑)。キャラクターたちが濃すぎましたね……。

 

よく字が多すぎるって言われて、申し訳なく思っています。全コマ読むのもなかなか大変だと思うので、どのページも一コマだけ大きくするように心がけています。で、大きなコマだけ読んでくれれば、もうそれでいいですみたいな。小さなコマは字が多すぎるし、面倒くさいと思うので別に読み飛ばしても話が通じるようにと思って。

 

いやあ、次回作は、文字も絵も大きい、簡単に読める漫画にしようと今から考えています(笑)。

 

 

――『お前はまだグンマを知らない』を読ませていただいて、群馬のディープな魅力に気づきました。

井: ありがとうございます。群馬を調べていると、関係する他県のことも目に入ってくるんですが、どこの県も掘ってみれば同じようにすごいと思うんですよ。漫画にも描きましたけど、群馬ってGDPがケニアとほぼ一緒なんですね。経済規模だけで見ると、いろんな国が混ざって日本を成していると考えることもできるわけです。それぞれの県に相当の力があるし、それこそ、北海道なんてもう独立できるんじゃないの、みたいな(笑)。

 

なので、地域ごとにそれぞれ掘り下げていくと、本当に誇るべき郷土の姿が見えてくるのではないかなと思います。

 

どうしても、今生きている人たちに向けて描く漫画だと、ご当地の美味しいものだったり、面白いアトラクションだったり、観光アピールみたいなものが中心になりやすい。直情的だし面白いですからね。ただ、それ以外のアプローチ。この作者バカなんじゃないかと思われるほど、ただ情熱がほとばしったような漫画なんかも、もっとあってもいいのかなって。そういう作品が読みたいなと思います。

タグ: 井田ヒロト  お前はまだグンマを知らない  映画化  群馬県  

Menu

Language