《本記事のポイント》
- ダウン症を社会から"撲滅"したアイスランド
- 「全ての人間の尊厳を信じる」として法案提出したアメリカの議員
- 世界で活躍するダウン症の人は大勢いる
出生前診断でダウン症だと判明したことを理由にする堕胎を禁じる法案が、このほど米ペンシルバニア州で可決した。超党派による支持で可決した同法案は、性別による堕胎を禁止する現行法を補完するものとなっている。
今回の法案提出は、ある国でダウン症が"撲滅"されたことを受けての動きだという。
ダウン症を社会から撲滅したアイスランド
北欧の国アイスランドでは、ダウン症と診断された胎児が100%に近い確率で堕胎される――。昨年8月に米CBSニュースが報じた現地レポートは世界に衝撃を与えた。
今では33万人の人口を有するアイスランドで、一年間に生まれるダウン症の子供は1、2人ほどしかいない。人口3.2億人のアメリカで一年あたり6千人のダウン症の子供が生まれることを考えると、異常に低い数値と言える。
というのも、アイスランド政府は「出生前診断という選択肢が全ての妊婦に提示されなければならない」としており、実際、80~85%の妊婦が出生前診断を希望するという。加えて同国は法律で、妊娠16週目以降であっても胎児がダウン症などの障害を有している場合は堕胎することを許可している。
アイスランドの遺伝子学者カリ・ステファンソン氏はCBSニュースの取材にこのように語った。
「私の理解では、われわれは基本的にダウン症を社会から撲滅したのです。今やアイスランドにはダウン症の子供すらほぼ見られません」「健康な子供を熱望することは何ら悪いことではないと私は考えています」
「一人残らず、何か社会に貢献する美しいものを持っている」
ペンシルバニア州の下院議員マイク・ターザイ氏は、こうした現状を知り、出生前診断でダウン症だと判断されたことを理由に堕胎することを禁ずる法案を同州で提出した。
ターザイ氏は法案を提出する際、「私は全ての人間の尊厳を信じるものです」とし、次のように述べた。
「誰一人、完璧に生まれてきた人はいません。そして、一人残らず、何か社会に貢献する美しいものを持っているのです。ペンシルバニアは愛あふれた思いやりのある州です。私たちはダウン症の家族たちを歓迎し、支援したい。彼らは、自分たちが孤独ではないということを知る必要があります」
ダウン症は肉体の「欠陥」ではなく「個性」だとする考えを明示した形だ。
実際、ダウン症を持ちながら社会で活躍している人も数多くいる。
ニューヨークやチェコなどにも個展を出した書道家の金澤翔子さんは有名だ。有名ファッション誌の誌面を飾るトップモデルとなったマデリーン・スチュアートさんも注目を集めている。オーストラリア出身のスチュアートさんは、ファッションショーを観に行ったことをきっかけにモデルを目指すと決意。20キロの減量に成功し、見事夢を実現させた。その後も、ファッションブランドを立ち上げるなど精力的に活動を続けている。
人間の本質は肉体そのものではなく、肉体に宿る魂だ。障害を欠陥だとして社会から排除するのではなく、個性の一つとして受け入れる社会的土壌が求められる。
(片岡眞有子)
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