トランプ大統領は、キリスト教系保守派の会合で、宗教国家としてのアメリカについて語った。写真:UPI/アフロ

2017年12月号記事

編集長コラム Monthly  Column

宗教政治家としてのトランプ

―「神の下の民主主義」を復活させるには

10月の衆院選は、教育無償化などバラまき政策を訴えた安倍・自民党のポピュリズム(大衆迎合政治)が、対決型で国民受けを狙う小池新党のポピュリズムに勝利したといえる。

今、世界各国でポピュリズムが台頭していると言われる。その代表はアメリカのトランプ大統領とされるが、安倍晋三首相などと同じような政治手法なのだろうか。

創造主への信仰心

10月、ワシントンでのキリスト教系保守派の会合で、トランプ氏はこんなスピーチをした(写真)。

「ジョージ・ワシントンは、宗教と道徳がアメリカの幸福と繁栄、成功に不可欠だと語りました」

「アメリカの建国の父たちは、独立宣言で創造主に4回も言及しました。4回も! 時代は変わりましたが、みなさん、今再びそういう時代に戻ろうとしています」

「私はトランプ政権で、私たちの国の宗教的遺産が今までにないほど大切に守られることを誓います」

この トランプ氏の「創造主」への信仰心は、政治上の判断にも持ち込まれる。 トランプ氏は9月の国連演説でこう語った。

「強い主権国家によって、その国民は未来を自分たちのものにし、自国の運命を支配することができます。そして、 国民一人ひとりが神の意志にもとづいた豊かな人生を花開かせることができます」

トランプ大統領は、キリスト教系保守派の会合で、宗教国家としてのアメリカについて語った。

「自由は神からくる」

トランプ氏のこうした「説法」は単なるレトリックではない。経済政策を語るときも、神が登場する。

「自由は創造主からもたらされるものです。だから私たちの政権は、自由をこの世の権力から国民へ返すのです」

9月に法人税を約40%から20%に、所得税も簡素化して引き下げる税制改革を発表した際も、雇用が増え、国民が働くことの尊厳を取り戻せる意義を訴えた。トランプ氏は減税によって「自由」を拡大し、「一人ひとりが神の意志にもとづいた豊かな人生を花開かせる」ことを実現しようとしているのだ。

昨年の大統領当選以降、アメリカの株価は過去最高を更新し続け、失業率も過去16年間で最低となった。「創造主が与えた自由を国民に返す」政策は軌道に乗り始めているようだ。

日本では安倍首相の意向を官僚が「忖度」しているが、アメリカでは トランプ氏が神の心を「忖度」し、価値判断し、実現しようとしている。 こうした「宗教政治家としてのトランプ」は報道されない。私たちは別のポピュリズム的なトランプ像を見せられているかもしれない。

「神託」と共存する民主主義

神の心を実現しようとすることは、欧米の政治の伝統だ。

古代ギリシャ民主政では、「デルフォイの神託」を受け、どう実行するかを人々が議論した。

民主政の端緒を開いたアテネの政治家ソロンは、神託を受けたうえで貧農の借金帳消しなどを決めたという。ギリシャの命運がかかったペルシャとの戦争でも、神託を「都市を放棄して、船に乗って防衛せよ」と解釈し、見事ペルシャ軍を打ち破った。

古代ギリシャ人は100%神を信じており、当時の民主政は「神の下での民主主義」だった。

17世紀イギリスで始まった近代議会政治も、基本構造は変わらない。ピューリタン革命の指導者クロムウェルは「我々は神に身を委ね、神が各人に語りかける御声に聴き入らなければならない」として、討論を通じて神の心の全体像をつかもうとした。

つまり、 近代民主主義は、「神託」が一人ひとりに降りることがあるという考え方から出発した。 当然、議会に参加する人々は、宗派は違えども、敬虔な信仰者たちだった。

この伝統は、アメリカにも受け継がれた。初代大統領ワシントンの信仰観は、「人間は至高の神の心を実現する道具であり、人間の知恵で理解できるものではない」というものだった。

アメリカは「政教分離の国」と言われるが、実際には、 ワシントンら建国の父たちが、政府が宗教にできる限り関与しないことで「自由」を拡大し、宗教が繁栄することを目指した。 それがトランプの言う「宗教的遺産」として、今でも続いているというわけだ。

古代ギリシアのソロンは、「神託」を受けて意思決定していた。

清教徒革命のクロムウェルは、一人ひとりに聖霊の声が降りると考えた。

ワシントンは、自分が至高の神の道具だと考えていた。

ソクラテスは、神に対する謙虚さを啓蒙した。

日本は戦後、神々を追放

実は かつての日本も、欧米に負けない「神の下の民主主義」の国だった。

日本の政治は、高天原で八百万の神々が話し合う民主主義的なあり方から始まり、神々が地上に送られ、国造りが行われた。天皇は神々の心を受け止め、地上で具体化する役割だった。武家政権以降も、日本の政治指導者は、「神々の心はどこにあるか」を考え続けてきたといえる。

その伝統が断ち切られたのが、敗戦後の占領政策だ。

マッカーサーの占領軍が作った憲法によって、米本国とは正反対の「政教分離」が導入された。アメリカの狙いは、「日本を弱くするには、宗教を取り除くしかない」というものだった。

憲法20条は、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」などと規定。行政や公立学校から宗教が排除され、マスコミも宗教を扱わなくなった。

その結果、宗教が社会の表側から姿を消し、国民が神の心について考える機会がなくなった。

悪魔の下の民主主義?

「神の心が分からず、価値判断できない国」 をつくったのはアメリカであり、それを受け入れた当時の吉田茂首相、占領憲法を全面擁護した宮沢俊義・東大法学部教授らだ(*)。

その"宗教的遺産"が受け継がれ、今の日本は、北朝鮮にミサイルを何発も撃たれても、首相が「最も強い言葉で抗議する」と言うだけで、「何が悪なのか」を主張できなくなっている。

安倍首相が、教育も老後も政府が丸抱えするポピュリズム的政策を打ち出しても、「国民の自由を拡大するために減税すべきだ」と言えるマスコミや言論人がいなくなっている。

「神々を追放した民主主義」は、神もあの世も存在せず、地上の人間の考えだけで何でも決められる。 今やポピュリズムから衆愚政治、国家社会主義へと転落しようとしている。宗教的に見れば、神に与えられた自由を奪い、地上を地獄に近づける「悪魔の下の民主主義」だ。

(*)吉田氏と宮沢氏は、政教分離を国家神道だけでなく、宗教全体を行政や教育から切り離すものと解釈し、後の時代の政治家や官僚に大きな影響を与えた。

宗教的説得力のお手本

「神の下の民主主義」が素晴らしいのは、トランプ氏が言うように、「神から与えられた自由の下で、豊かな人生を花開かせることができる」からだ。

それを願い、神仏はいつの時代も地上の人間を導こうとしてきた。現代では、幸福の科学の大川隆法総裁の2600回を超える説法や霊言収録を通じて、神仏の心が伝えられている。

大川総裁は著書『政治と宗教の大統合』でこう指摘している。

「私は、『クラゲのように漂っているこの国に、きちんとした国家としての骨格を与えることが、宗教の使命である』と考えています」

古代ギリシャの民主政が衆愚政治に転落していく中で、ソクラテスは一種の新興宗教を起こし、守護霊(ダイモン)の声に従い、「無知の知」を啓蒙した。「無知の知」は「神に比べれば人間の知恵は無に等しい」という神への謙虚さだ。

「神の下の民主主義」を復活させるために、ソクラテスの方法は現代にも応用できるのではないだろうか。

(1)ソクラテスは、ソフィスト(弁論家)たちの心の内にある真理を発見できるよう促した。国民一人ひとりの良心を信じることがまず大切になる。

(2)ソクラテスは自身を「神がアテネにくっつけた虻」と位置づけ、ぶんぶん飛ぶように人々を繰り返し説得した。トランプ氏の「ツイート砲」のように数を撃つことも必要だ。

(3)ソクラテスは従容として死刑となったが、そこまでいかなくても、見返りを求めない無私無欲の人でありたい。

マスコミの攻撃が依然続いているが、トランプ氏は大統領らしい大統領になってきた。 神の心を実現しようと奮闘するトランプ氏の「宗教的な説得力」にも学びたい。

(綾織次郎)

BOOK

吉田ドクトリンの過ちがすぐに分かる一書

吉田茂元首相の霊言

『吉田茂元首相の霊言 戦後平和主義の代償とは何か』

大川隆法著
幸福の科学出版刊