「地上の太陽」とも言われる、核融合発電の実用化に向けた計画が、日本で進んでいる。

文部科学省の委員会が、日本で核融合発電の「原型炉」を建設するかどうかについて、「2030年代に政府に判断を求める」という基本方針案をまとめた。この方針は、今年の秋に正式決定される。

核融合炉は実用化までに、その段階に合わせて「実験炉」「原型炉」「実証炉」を建設して研究を行う。その成果を踏まえて、いよいよ発電を行う「商用炉」を建設することとなる。

日本は現在、7カ国が共同で建設を目指す、国際熱核融合実験炉ITER(イーター)計画に参画している。日本は「実験炉」であるITERで得た基礎的な技術を検証することによって、原型炉を国内に建設するかどうかを決定する。

エネルギーはいくらでも取り出せ、しかも安全な核融合

核融合と言えば、最も身近な例は太陽だ。太陽でも水素が核融合し、エネルギーを発している。核融合炉は、この太陽の仕組みを再現しようとするものだ。海水から取り出した重水素や三重水素を燃料にして、高温の「プラズマ」と呼ばれる状態にしたうえで、核融合を起こして発電を行う。

しかも、発電の効率は非常によく、燃料1グラムから石油8トン分のエネルギーが得られる。海に囲まれた日本は、無尽蔵のエネルギー源を使えることになるため、国家戦略上も極めて重要だ。

さらに、安全性も高い。「核分裂」を使う原発では、数万年以上放射線を出し続ける「高レベル放射性廃棄物」が生まれてしまう。一方、核融合炉では、放射線量の少ない廃棄物しか出ないため、100年経てばゴミとして処理できる。核融合炉の中の温度が急激に上がっても反応が停止する仕組みであるため、制御不能になることはない。

核融合発電の実用化に向けて各国で研究が進んでいるが、日本は世界をけん引している。核融合発電を行う際には、燃料の温度を1億度以上にする技術が必要となる。茨城県の那珂核融合研究所では、プラズマを長時間維持する技術で世界最高を記録した。

ITERの機構長であるベルナール・ビゴ氏も、同研究所がある茨城県那珂市について「ITERを支える中心的な場所」とコメントしている。

人口100億人時代の地球を救う可能性

日本でも、核融合発電の研究は数十年前から始まっており、実用化は21世紀半ばを見込んでいるという。基本方針案では、「国民の信頼を得るためには安全性の説明だけでなく、国民の不安や疑問に丁寧に答える活動が必要」とまとめている。

いつ実用化されるか、目処はまだ立っていない。しかし、21世紀中に地球人口が100億人を突破することが予想されている中、エネルギー不足は新たな紛争の危機を招きかねない。核融合技術は地球の危機を救う可能性をも秘めている。

未来の産業を創る技術は、一朝一夕には完成しない。研究内容の面でも、人材養成の面でも、長期戦略が必要だ。だからこそ、実現までの時間を短縮するための投資を目指しつつ、実現に向けた手を打つ意思を早期に固める必要があるだろう。

(河本晴恵)

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