【名画座リバティ (35)】"影を隠す"男──『ドリアン・グレイの肖像』
2026.11.01
映画を愛する皆様、いつもお読みくださりありがとうございます。
大ヒット上映中の幸福の科学の映画『影を売る女』はご覧になりましたか。同作のストーリー原案は19世紀イギリスの作家オスカー・ワイルドの霊示によるとのことです。「影を売った代償として幸・不幸を味わう」というそのアイデアはワイルドの長編小説『ドリアン・グレイの肖像』と重なるところがありますので、今回は『影を売る女』の関連作として、ワイルドの小説を映画化したクラシックなアメリカ映画(1945年)をご紹介します。
(あらすじ)
1886年ロンドン。美青年ドリアン・グレイは画家に肖像画を描いてもらい、友人の言葉にそそのかされて「この絵が歳をとり、自分はいつまでも若ければいいのに。そのためなら魂をくれてやってもいい」と口にする。彼は歌手シビルと恋に落ちて婚約するが彼女を捨てる。シビルは自殺し、ドリアンが肖像画を見ると口元に冷酷な微笑が加わっていた。その後もドリアンは快楽に生き他人を不幸に陥れ、38歳になっても20歳ほどにしか見えないが、肖像画は醜悪な中年男に変貌していく。やがて彼は若いグラディスと愛し合うが、真実を知らないグラディスを欺くことに良心が耐えきれず──。
主役の男優はまさに絵に描いたような美男です。作品はアカデミー白黒映画撮影賞を受賞しましたが、ストーリーに多少の脚色がなされていることや、原作の高尚な文学的表現をナレーションに詰め込みすぎとの指摘もあり、評価が高い名作というほどではありません。それでも原作のテーマと雰囲気を映像で味わうには十分ですし、以前はレンタルや名画座でもほとんど観る機会がなかったこんな珍しい旧作がサブスクで手軽に観られるのですから、秋の夜長に楽しむ一本としてお勧めします。
物語の寓意や教訓については『ザ・リバティ』10月号(特集記事&ワイルド伝)で深く考察されていますので、主にそちらに譲り、ここでは本作と『影を売る女』に共通する映画的興味について述べます。それは「人に知られたくない欲望や悪を隠す」ことの映画的表現です。
本作のドリアンは当初、肖像画を一階の広間に置いて布で覆い、ときおり布を外して眺めていました。しかし自分の悪が肖像画の上に表れることを知ると、それを来客に見られるのを恐れ、家の最上階にある長年使っていない自分の子供時代の遊び部屋に肖像画を運び入れ、部屋に鍵をかけて閉め切ります。決して人に知られてはならない秘密、自らの悪の正体を、幼い良心の象徴のような子供部屋に隠したのです。
一方、『影を売る女』の夕子の住まいには秘密の部屋はありませんが、クローゼットにずらりと並んだ高価な服の奥に金庫が隠されています。そこに仕舞った9千万円の札束を手にする夕子の妖しい微笑みは、彼女にとって現金がフェティシズム(物神崇拝)の対象となっていることを思わせます。OLには分不相応な部屋のクローゼットの奥が、夕子の人知れぬ欲望の隠し場所でした。
英語には「スケルトン・イン・ザ・クローゼット」という言い回しがあります。直訳すれば「クローゼットの中の骸骨」で、人を殺して死体を世間の目から隠すため長年クローゼットに入れておいて白骨化したとのイメージから、「家族や個人の、人に知られたくない秘密」という意味で使われます。ドリアンと夕子が肖像画や札束を人目にふれない場所に隠すのは、多くの人に共通する行動の典型かもしれません。
あなたはどうでしょうか。家族にも誰にも見られないよう、どこかに何かを隠したりしてはいませんか。例えばヘソクリ、昔の日記や手紙や写真。それらは人に見せられないという点で一種の心の影、ユング心理学でいう「シャドウ」に通じる場合があるはずです。ドリアンの肖像画はそうした"影"の比喩と解釈することができ、本作は原作が言葉で表現している肖像の変化を映像化することで、私たちの心にもある"影"を目に見えるかたちで突きつけてくるかのようです。
なおドリアンのように自らの「正体を隠す」ことについては、大川隆法・幸福の科学総裁の次の言葉が思い出されます。
「(3)妖怪の本質は、自分の正体を見せず、相手を翻弄するところにある。」(『妖怪にならないための言葉』より)
人に見せない自分の正体は多くの場合、いつかはクローゼットの骸骨のように露見します。たとえ悪しき念いや欲望を、誰にも知られることのない自分の心の奥深く仕舞い込んだとしても、神仏にはすべてを見られています。本作には何度か「天国も地獄も人間の中にある」という言葉が出て来ます。天国、地獄、そして霊界の裏側である妖怪世界も、すべては私たちの心の隠しがたい表れである。その真理を描いたワイルドの芸術の一端に、本作でふれていただければ幸いです。
(田中 司)
『ドリアン・グレイの肖像』
- 【スタッフ】
- 監督:ルバート・リューイン
- 【キャスト】
- 出演:ハード・ハットフィールド ジョージ・サンダース ドナ・リードほか
1945年 | 110分 | アメリカ
【関連書籍】
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