ミャンマー市民の心の声に耳を傾けられるか 匿名映画監督が描く映画『ミャンマー・ダイアリーズ』
2023.07.30
©The Myanmar Film Collective
2023年8月5日(土)ポレポレ東中野ほか 全国順次公開
《本記事のポイント》
- 連行される人々
- 市民的不服従という「連帯」
- 「聞こえますか」
あらゆる悲しみは、それを物語にすることで、はじめて耐えられるようになる──。
2021年2月1日にミャンマーで突如始まった軍事クーデターで、アウンサン・スー・チー国家顧問をはじめ、政権与党の国民民主連盟(NLD)の議員や関係者が一斉拘束。これにより、10年にわたって根付いてきたミャンマーの民主主義は剥奪され、全ての国家権力は、ミン・アウン・フライン国軍総司令官に委譲された。
このクーデターの直後の、国軍に抵抗する人々や非武装の市民を弾圧する警察の姿、抵抗を示す市民の苦悩を描いた映画「ミァンマー・ダイアリーズ」が8月5日から公開される。
映画誕生のきっかけは、クーデターから数日後、若手ミャンマー人の監督10人が「ミャンマー・コレクティブ」を結成したことにあるという。
彼らの短編作品とSNSに投稿された一般市民の映像がつなぎ合わされ、複数形のダイアリーズ(日記)が紡ぎ出されていく──。今も圧政下にある人々の切実な気持ちを世界に伝える貴重な作品である。
©The Myanmar Film Collective
連行される人々
ハエでも潰すかのように市民に暴力を振るう武装警察や、市民に紛れ込んだ暴力団が襲いかかる姿は、2019年の香港革命時に、香港市民に弾圧を加えた武装警察や白シャツ隊などのヤクザを彷彿とさせる。
「ママに何もしないで!」
「父は悪いことをしていない。逮捕状を見せて下さい」
治安部隊は「少しの間、連れていくだけだから」となだめながら、罪なき市民らを連行していく。
クーデターで全権を掌握した国軍は、市民を逮捕できるように法改正に着手した。21年2月に行われた刑法改正で、軍事政権は「政府、軍、軍幹部に対する不満や嫌悪を誘発する行為」を処罰できるようになった。懲役は7年以上で、最大20年の重刑に引き上げられ、即日発効されている。
この法律を盾に軍事政権は、SNSで国軍を批判したという理由だけで、住居に押し入り連行するようになった。「法の支配」の有名無実化である。
クーデターからおよそ2年半が経過したが、現在も投獄されている人々の数は1万人を超える。この時に治安部隊や警察に連れ去られた人々は、今もまだ家族もとに戻っていないのである。
©The Myanmar Film Collective
市民的不服従という「連帯」
映画では、市民らが「民主主義、連帯、選挙」を象徴する3本の指を掲げるシーンや、市民らの鍋を打ち鳴らす「合奏」も描かれている。
仏教国であるミャンマーにおいては、鍋などの金物を叩くのは「悪霊払い」の意味がある。「悪霊である国軍よ、退散せよ」と市民は連帯を示したのだ。
また当時、公務員である病院の医師や看護婦が仕事をボイコットすることで、軍事政権に抵抗を示すストライキも始まった。
このストライキは市民的不服従運動(CDM=Civil Disobedience Movement)と呼ばれ、次第に他の公務員、技師、銀行員など、すべての職種に拡大。映画では、仕事を失う恐れに苦悩しつつ、市民的不服従運動に参加すべきかを逡巡する公務員の姿も描かれる。彼は最終的にいかなる判断を下したのか──。
©The Myanmar Film Collective
「聞こえますか」
ナチスが第一党になった1933年、ナチスはユダヤ人商店をボイコットする運動の組織化のために、ユダヤ人の店に印をつける活動を開始した。その印をつけたドイツ人たちや、それを傍観していたドイツ人たちは、同胞の市民を見殺しにするプロセスに無自覚に参画していくことになる。
このように全体主義的統治は市民の協力があってはじめて完成する。それを阻止するには「民主主義」という目に見えない価値への連帯が不可欠なのである。
ただそれは当然ながらミャンマー市民だけに求められるものではない。宗教的な意味での愛とは政治の世界では「連帯」という形をとるからである。
「聞こえますか」と呼びかける、ミャンマーの人々の心の声に耳を傾けられる私たちでありたい。
『ミャンマー・ダイアリーズ』
- 【公開日】
- 2023年8月5日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
- 【スタッフ】
- 監督・制作:ミャンマー・フィルム・コレクティブ(匿名のミャンマー人監督たちによる制作)
- 原題:Myanmar Diaries | 2022年 | オランダ ミャンマー ノルウェー | 70分 | ミャンマー語 |カラー | DCP | 5.1ch 配給:株式会社E.x.N
公式サイト https://www.myanmar-diaries.com
【関連書籍】
いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版
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