若者5千人以上を救う「許しの心」──孤独に寄り添うプロフェッショナル

2021.07.19

いつの時代にも、自分を顧みず、人のために尽くす人がいる。傷ついた若者に寄り添ったのは、暗闇に光を見出した一人の女性だった(2019年1月号記事より再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)。

◆ ◆ ◆

若者メンタルサポート協会 理事長

岡田 沙織

Profile
(おかだ・さおり) 1973年生まれ。自身の過酷な経験を活かし、2012年から悩める若者のSNS相談を24時間無料で行っている。

神奈川県座間市のアパートで、ネットで自殺をほのめかした若者9人が殺害された事件から、10月で1年が経った。

うつ、不登校、自傷、非行。「死にたい」と思った中高生は、10人のうち2~3人に上る(*)。若者の自殺率は世界一高い。

彼らを救おうと、立ち上がった女性がいる。NPO法人「若者メンタルサポート協会」の理事長を務める岡田沙織さんだ。

岡田さんは2012年からSNSのLINEで、24時間無料で相談に乗る。スマホを見せてもらうと、1千通以上のメッセージが届いていた。

(*)文部科学省調べ。

「消えたい」「死にたい」

若者から送られてきたLINE。アムカは二の腕などを切る「アームカット」の略。

送られてくるメッセージは、若者たちの心の叫びだ。

両親がキレる。見知らぬ男(女)を家に連れ込む。他の兄弟だけをかわいがる。成績にうるさいなど、悩みはさまざま。

「死にたい子」のうち、虐待されているのは4割。残りは親から精神的虐待を受け、家に居場所がない子たちだ。そのため児童相談所にも保護されず、苦しみは誰にも気づかれない。相談者は、「誰にも愛されていない、誰も信じられない」という気持ちを共通して抱えている。

「でもその裏には『誰かに愛されたい、誰かを信じたい』という気持ちがあるんです」(岡田さん)

「私は愛しているよ」と伝え続ける岡田さんが相談に応じた若者は5千人を超える。事務所を持たないため、会える子には直接会い、自宅でご飯を食べさせ、泊まらせることも多い。

お釈迦様のようになりたい

活動の原点には「優しいお母さんのような人に、話を聞いてほしかった」という、自身の思いがある。

岡田さんも、「死にたい」若者の一人だった。両親の離婚、親族からの暴力、リストカット、高校中退、水商売、暴走族との交流、薬物、自殺未遂、レイプ、中絶、離婚、うつ、生活保護─。過酷な人生を送った。

「新しい家族が嫌がって迷惑がかかるから来ないでほしい」

15年前、幼いころに別れた父親から、冷酷な言葉を投げかけられ、極度の人間不信に陥る。

ずっと、「自分はダメな人間」「価値がない人間」と責め続けた。自身も離婚を経験し、金銭的な苦労もあってうつになった。「なぜ私だけがこんな目に遭うの?」と恨んだ。

暗闇の中に沈む岡田さん。いろいろな本を読む中、ふと心に湧いた思いが彼女を救った。

お釈迦様のようになりたい──。

岡田さんはこう語る。

「許せないから苦しいし、傷つきます。でも、お釈迦様のように、『何でも許します』と言える人格者になれば、誰かに何をされても、傷つかないだろうなと思いました」

岡田さんは独りで泣きながらも、「よく頑張っているよ」と自分を励ました。すると、「ずっとさびしかった。傷ついていた……」という心の声が聞こえてきた。その声に耳を傾けるうちに、自分が癒されていくのを感じた。

心が徐々に浄化されていく中で、「生まれ変わりはきっとある。この人生ではこういうことをしようと、自分で選んで生まれているのでは」と自然と思えた。その瞬間、いろんな人の顔が走馬灯のように浮かんだ。

「人生で起きた辛い経験は、自分が選んでたんじゃん! 今まで傷つけられたと思っていたけど、私を成長させるために起きたこと。辛かったけど、あの人にもあの人にも感謝。だって自分で全部選んできたのだから」

感謝の思いで号泣した。全てを許せた瞬間だった。

「まず許すべきだったのは、自分だった。自分を許さなければ、人も許せない」

「生かされている自分」に気づいた岡田さんは、「愛をもらう側」から「愛を与える側」に生まれ変わった。

無条件に許す

岡田さんは、活動で出会った紗恵子さんを養子にした。出会ったころ、覚醒剤に手を出すまで追い詰められていた紗恵子さんは、岡田さんと交流するうちに、大きく変わっていった。

現代の若者の気持ちに寄り添うための講演活動も、積極的に行っている。

周りの大人が「こうあるべき」と意見を押しつけると、失意の中で苦しむ若者は辛く感じるという。だから岡田さんは「無条件の愛」を大切にする。「生きているだけでいい」「いてくれてありがとう」と無条件で相手を受け入れるのだ。

女子高生から「リストカットしちゃいました」と相談されれば、「やめなさい」と止めるのが普通だろう。

だが岡田さんは、「腕を切るのは、必死に生きようとしている証だよ。あなたはよくやっている」と逆にほめる。

5千円で援助交際をしていた女子高生には、「せめて50万でしょ(笑)! あなたにはもっと価値があるんだよ」と伝えた。その後、「『沙織さん、ごめんなさい』という罪悪感が初めて生まれました」というメッセージが届いた。

彼女の両親は不仲だった。援助交際をしていた理由は、男性に抱きしめてもらえたからだ。愛が不足していた。

「大切に思ってくれる人がいると、自分を傷つける行為は悪いことだと気づき、援助交際も自分でやめられます。彼女は今、福祉系の大学を目指していて、私の活動も手伝ってくれています」

銀行残高7千円の奇跡

『あなたは何も悪くない』
岡田沙織 著
(サンマーク出版)
「親である大人が心満たされる世の中になるようにと、頑張りすぎる大人に向けて愛を込めて書きました」(岡田さん)

「人は使命を果たすために、この世に生まれてくる」

岡田さんの活動の根底には、こんな考えがある。

複数の親戚の男性にレイプされ、何度か中絶した女子高生から相談を受けた。怒りが湧いたものの、「そんな体験にも学びがあるのでは」と踏みとどまった。

「『彼女にも何らかの役割や使命があって、そういう人生を歩んでいる』と考えた時、それを悲しむのは違うと思ったんです。例えて言うと、オリンピックで金メダルを取ったマラソン選手が、別の選手の走る姿を見て、『そこが辛い時だよね。分かるよ』と思うような感覚です」

岡田さんも、「使命のために生かされている」と感じたことが何度かあった。

例えば活動を始めたころ、銀行残高が7千円になった。

「もうだめだ。来週死のう」

そう思ったが、「来週死ぬのだから一日一生、力を出し切って生きよう」と覚悟した。するとSNSでつながった女性から、「あなたの活動をずっと見守っていました。お金に困っているでしょう」と15万円が3カ月間振り込まれた。奇跡が起き、命をつないだ。

今や岡田さんは、多くの仲間に囲まれている。プライベートでは素晴らしい男性と再婚し、カウンセラーの講座も始め、活動の幅を広げている。

岡田さんは遠回りの人生を送ったように見える。だがその経験から、愛が広まっていった。

苦しくても、自分で人生を変えられる。今日も岡田さんは、誰かに手を差し伸べている。

【関連書籍】

幸福の科学出版 『青銅の法』 大川隆法著

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【関連記事】

2019年1月号 孤独に寄り添うプロフェッショナル / うつ、非行、虐待、自殺…… Part.1

https://the-liberty.com/article/15128/


タグ: 不登校  自傷  自殺  著名知識人  岡田沙織  うつ  メンタルサポート  非行  虐待 

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