対米台強硬路線を煽る中国共産党「タカ派」 【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2020.05.27
《本記事のポイント》
- 中国のタカ派から「貿易合意再検討」を求める声
- タカ派論客の背後に、追い込まれた習近平政権
- 台湾への軍事行動はあるか?
人民日報の下部組織『環球時報』(英語版)は5月11日、「中国では、米国との貿易合意を再検討すべきとの声が高まっている」というタイトルの記事を掲載した。
中国政府関係者によれば、米国による中国に対する「悪意」ある攻撃が、北京政府の怒りを爆発させた。そこで、対米貿易問題における新たな交渉と報復を求める声が出ている、というのだ。
1月15日、トランプ米大統領と劉鶴・中国副首相の間で、米中第1段階合意が締結された。1番の肝は、「中国は今後2年間で、米国からのモノやサービスの輸入を2000億米ドル(約21.4兆円)以上増やす」という点である。実は妥結当初から、中国国内には、劉鶴副首相が米国に譲歩しすぎたという批判があった。
タカ派論客の背後に、追い込まれた習近平政権
上記の内容を掲載した『環球時報』の編集長、胡錫進は元来、「タカ派」の論客として知られる。
近頃、米ロ両国による新戦略兵器削減条約の継続協議が膠着状態に陥った。そこで胡は5月8日から2日連続で、「中国は現役の核弾頭を米ロに匹敵する1000発以上の水準に引き上げるべきだ」とする文章を発表した。
また、胡錫進は主張の中で「中国が、すでに米国を1番のライバルとして策を練る中、わが国がまだ数年前、十数年前の米国の核の脅威に関する定義を持ち出して、今の係争を指導するとしたら、それは中華民族にとって大いなる悲哀だ」と述べている。
胡錫進の記事が公表されたという事は、胡の主張が中国共産党内で支持されていると考えられよう。現在、習近平・中国国家主席は党内で批判の矢面に立たされ、中国内外で強硬姿勢を見せないと政権をもたせられない。そこで、胡錫進等の一部「タカ派」を使って、内外に強硬な態度を取っている可能性がある。
もちろん党内は、胡錫進のような「タカ派」ばかりではあるまい。習政権内でも、しばらくは米中が"協力"して世界をリードとして行こうとする「ハト派」も存在しているはずである。北京政府は「タカ派」と「ハト派」の熾烈なせめぎ合いが行われているのではないだろうか。
台湾への軍事行動はあるか?
5月20日、再選された蔡英文総統と新副総統となる頼清徳(前行政院長)の正式な任期が始まった。中国が黙って見ているだろうか。
人民解放軍が直接、台湾本島を攻撃するかどうかは分からない。すでに、台北の米在台協会(AIT)には、数は不明だが、相当数の米海兵隊ないしは米海軍が常駐しているからである。
しかし、台湾が南シナ海で実効支配する太平島を攻撃する可能性は捨て切れない。だからこそ最近、米艦隊が南シナ海を遊弋(ゆうよく)している。
東アジアは、近年稀に見るきな臭さだ。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
大川隆法著 幸福の科学出版
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