国際政治を動かす「宗教の影響力」 領土問題の解決、軍事政権の民主化を実現
2019.12.20
写真:Alessandro Colle / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- 国際司法に訴えても、解決しない問題はある
- 例えば、ローマ教皇は戦争や領土問題を仲裁したことがある
- 日本の歴史でも、朝廷に権威があった時は、「調停者」の役割を演じた
日本は中国、韓国、ロシアなどと領土問題を抱えている。それ自体が異常に見えるような意見もあるが、世界に目を転じると、国境紛争を抱える国は多数を占めており、日本が異常な国であるわけではない。
ギリシャとトルコ、イギリスとスペイン、インドとパキスタンなどの間でも、長年、主権はどこか、国境線はどこに引くべきかについて、対立し続けている。主権国家としては、領土を守ることは当然であるが、それだけに対立の溝は深い。
国際司法は時に無力となる
領土問題を解決する最適な手段として考えられているのは、「国際司法の裁定」だろう。だが、国際機関の裁判所が判決を下せば、領土問題が必ずしも解決するわけではない。
南シナ海の領有権問題をめぐり、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、中国が独自に主張する境界線「九段線」に国際法上の根拠がないことを認定した。しかし中国はそれを無視して、人工島に軍事基地を造り続け、国際秩序を乱している。
もし仲裁裁判所に執行権限があったとしても、中国が一蹴するのは間違いないだろう。
ローマ教皇は戦争を止め、領土問題の解決へ
そうした中、日本人にとってあまり馴染みのない国際問題の解決手段として、「宗教の影響力」がある。
例えば、アルゼンチンとチリが争った領土問題。両国は、南アメリカ大陸の最南端にあるピクトン島、レノックス島、ヌエバ島の3島をめぐって激しく対立した。
この島はアルゼンチンとチリの国境沿いにあり、海域には石油が埋蔵するなど、非常に重要な場所に位置していた。両国は1970年代に熾烈な領土争いを見せ、78年にはアルゼンチン軍が軍事行動をとり、一触即発の状態に陥る。
その時に登場したのが、ローマ教皇のヨハネ・パウロ二世だ。教皇は、両国の軍がにらみ合った直後に仲裁に入り、戦争の回避に成功する。
教皇は、争いの種である領土問題の解決に乗り出す。粘り強い交渉により、犬猿の仲だったアルゼンチンとチリは、ついに84年に「平和友好宣言」を法王庁で調印し、新しい国境線条約を作成。領土問題の終止符を打った。
西側陣営が仲裁しても進まなかった領土問題が、教皇の調停によって平和的に解決したのだ。
軍事政権の打倒、民主化にも尽力
それだけではない。教皇はその後、チリの軍事政権を崩壊させることにも尽力した。
教皇が87年にチリを訪問した際、当時、君臨していた独裁者アウグスト・ピノチェトを批判。チリ国民は教皇の言動に熱狂し、88年に独裁政権は倒れ、民主主義体制に移行する。
教皇の外交や政治的発言は、各国がすべて受け入れているわけではない。当然、それぞれ事情があり、その通りにならないこともある。中には、間違った考え方も含まれているだろう。
しかしここで言いたいことは、「宗教の力」によって、世界を平和にすることができるという可能性のことだ。日本の歴史でも、朝廷に権威があった時は、紛争や訴訟事件などを調停し、安定をもたらした過去がある。
「宗教が政治を動かしている」という事実に、多くの人が気づけば、世界をよりクリアに見ることができるだろう。
(山本慧)
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