停滞する日露平和条約の交渉 日本には大胆な「決断力」が求められている
2019.09.13
写真:Dimitrije Ostojic / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- 日露の本当の意味での"終戦"は
- 日露関係強化は、両国の対中抑止につながる
- 今の日本外交は、ロシアから「本当の信用」を得られない
このほど開かれた東方経済フォーラムで日露首脳会談が行われたが、両国の平和条約の締結交渉は進展しなかった。
ロシアのペスコフ大統領報道官は8日、「(日本側の)期待が高すぎる」「日露はまだ多くの重大な問題を抱え、解決の出口に近づいていない」などと述べた。
日本は締結後に北方領土の返還を求める中、「安全保障に関する課題がある」(プーチン露大統領)というように、ロシアは返還に伴う安全保障上の懸念を繰り返し表明している。北方領土に米軍基地がつくられれば、ロシアの太平洋への出口が塞がれるためだ。
両者の主張は噛み合っておらず、交渉は難航している。
日露の本当の意味での"終戦"は
条約締結の障害には、日露の歴史問題をめぐる大きな溝もある。
1945年9月2日。日本が第二次世界大戦の降伏調印をした日、ロシア(当時はソ連)は北方領土の歯舞諸島攻略作戦を開始した。5日に千島列島を占領して以降、今も支配を続けている。これに対し、日本は「日ソ中立条約を破り、不法に占拠した領土を返せ」と主張している。
一方、ロシアは大戦で果たした役割に対する"分け前"に不満を持っている。ロシアは、民間人を含め2000万人以上の犠牲を出してドイツに勝利した。イギリスやフランスを亡国の危機から救ったという自負がある。
アメリカとの取り決めで、ロシアは終戦後の日本を分割統治しようとした。だが、原爆投下によって、日本の降伏が近づいたことを受け、8月8日に突然、対日宣戦布告。本来は北海道も占領したかったが、日本軍の抵抗に遭うなどして、その後日本はアメリカの統治下に置かれた。
ロシアは北方領土の支配だけでも不満がある。こうした主張をそのまま受け取るわけにはいかないが、日本側はロシアの立場への理解が低いのも問題だ。
日露関係強化は、対中抑止につながる
日ソ中立条約の破棄、シベリア抑留など、日本が簡単には忘れられない「ロシアの悪事」だが、ロシアとの付き合い方を見直すときが来ている。
北朝鮮の核問題や中国の軍拡などにより、アジア情勢が緊迫化している。ロシアとしては、北方領土周辺の防衛体制を固め、それに対する備えを万全にしたいところだ。
しかし、それは決して、日本にとっても悪い話ではない。条約締結を機に、ロシアとの関係を強化すれば、中国は背後から同国にけん制される形となり、うかつに東シナ海や南シナ海に進出できなくなる。また、ロシアとの協力関係を強めることは、日露双方の利益になるばかりか、ロシアの中国依存を防ぎ、中国の「一帯一路」構想を止めることにもつながる。
プーチン氏の守護霊は、『 「日露平和条約」を決断せよ 』の中でこう述べている。
「 米国だけでなく、ロシアと仲良くなることで、中国の核兵器を無力化できる 」
「 中国は、南沙諸島周辺の国々を属国にしようとしていくだろうけれども、『ロシアと日本が結んでおけば、日本を属国にすることはできなくなる』ということは言えるんだよ 」
「(安倍政権は) 小手先のことを考えずに、もう、堂々としたほうがいいよ 」
今の日本外交はロシアから信用されない
日本外交がアメリカの"言いなり"であることは、ロシアにとって、ある意味"脅威"に映っている。
ロシアが2014年にクリミアを併合した問題をめぐり、日本は欧米の判断に追従し、ロシアへの経済制裁に加わった。他国の判断に追従しがちの今の日本外交は、ロシアから「本当の信用」を得ることはできない。
安倍政権下での日露首脳会談は、今回で27回目を迎えた。結論を出さない会談に、プーチン氏がこれからも付き合い続けてくれると考えるのは、楽観的と言わざるを得ない。
中国という新しい脅威の登場を受け、日露は関係を見直して協力し、アメリカをも巻き込む絶好の機会が到来している。それに向けた一手となるのが、無条件での平和条約締結だ。日本の「決断力」が求められている。
(木村亮太)
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