法人減税が大企業優遇、中小企業軽視なワケ イノベーションを起こす改革を
2019.07.15
《本記事のポイント》
- 日本の法人税は、大企業・古い産業を優遇していた
- 大企業は中堅企業より、約2.5倍減税されていた
- 研究開発への減税額は、古い産業が圧倒的に多い
自公政権は10月に消費税を引き上げる際、軽減税率導入や自動車・住宅の購入支援、公共事業の増加など、増税対策を行う。来年には、年収850万円以上を対象とした所得税も引き上げ、税制改革を進めている。
あまり注目されていないが、「法人税改革」も税制改革の柱の一つだ。自民党は、2014、16年の選挙で「法人税の実効税率(現在は29.74%)を2割台に下げる」ことを公約に掲げたが、今回は強調していない。消費増税に踏み切るため、国民からの反発を恐れているのだろう。
だが、各国が法人税の引き下げ競争を行う中、法人税の見直しは重要な論点である。
それを考える参考になるのが、シンクタンクの日本総合研究所が作成した「租税特別措置の実態と分析」だ。同資料によれば、「法人税制が大企業や古い産業を優遇している実態」があるという。
減税措置が不公平になっている
(単位は%で、比較対象は単体法人。企業規模は資本金基準で、中小は1億円以下、中堅は1億円超~10億円以下、大企業は10億円超。出所は日本総合研究所作成「租税特別措置の実態と分析」)
企業規模が大きくなれば、減税額が大きくなるのは当然である。しかし、先のレポートによれば、減税額と所得を対比させた「減税率」で見ても、大企業が最も優遇されているという。
興味深いことに、減税率で冷遇されているのは、中堅企業だったということだ。恐らく、強者でも弱者でもない「中間層」が最も割を食う形になっているのだろう。
減税が古い産業に集中という偏り
また、減税される業種にも「偏り」が見られる(下グラフ)。
法人単体での研究開発の減税額をみると、化学工業や鉱業、光学機械器具等、金融保険業、石油製品、ゴム製品など、「伝統的な製造業」が中心となっている。
(単体法人での研究開発税制の業種別減税額。総計2651億円を割合に換算。出所は日本総合研究所作成「租税特別措置の実態と分析」)
一方で、家具や料理飲食旅館業、小売業などは、減税の恩恵をほとんど受けていない。
減税措置に偏りがあることは、ある政策目的を達成するために支援する「特定業種等支援」を見ても明らかだ。制度の創設年度を比べると、昭和時代(表内の赤字)につくられたものが多く、2000年以降はわずか5つしかないことが分かる(下表)。
表を見ても分かるように、「古い産業を守るために減税を行い、新産業を創出する発想が弱い」と指摘されている。さらに、一度措置がつくられると、"半永久的"に制度が持続していることも問題だろう。
減税が天下りに利用されている
なぜ、このような措置がつくられるのかと言えば、財務官僚が天下り先を確保するためだろう。「増税するが、あなたの産業や企業は特別に税金を減免する」という抜け穴をつくれば、官と民との間で癒着が生まれやすい。
イノベーションを起こし、国富を生み出すには、大企業や古い産業を守る税制のあり方を根本的に見直さなければならない。どのような産業であれ、企業規模の大きさに関係なく、減税の恩恵を受けられる「公正で簡素な税制」に変える必要がある。
日本の国際競争力を高めるために、法人税率を引き下げつつも、特別措置を廃止し、フェアな税制に改革していくことを検討すべきではないか。
(山本慧)
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