厚労省が「妊婦加算」を凍結表明 減税による景気回復で子育て支援を
2018.12.16
《本記事のポイント》
- 「妊婦加算」が開始数カ月で早くも凍結が決定
- 子育て支援が手厚くなる一方で、当事者負担の「妊婦加算」は大不評
- 本当の子育て支援は減税による景気回復
厚生労働省が14日、4月から始まった「妊婦加算」を早くも凍結すると発表した。
「妊婦加算」とは、妊婦が病院で診察を受けると自己負担が上乗せされるもので、自己負担額は初診の場合は230円、再診なら110円(いずれも3割負担の場合)が上乗せされる。
妊婦が受診した場合、診察や薬の処方に一定の配慮や専門知識などが必要になることが多いため、診療報酬を上げることで、より丁寧な診察を行うよう医師に義務づけることを趣旨として始まったものだ。
風邪や肌のトラブルなど、妊娠とは関係のない症状で病院を受診しても、「薬は出せません」「婦人科へ行ってください」などと言われる事例も多いため、一部では歓迎の声も上がった。
しかし、「妊婦の自己負担を増やすなんて、少子化を本当に解消する気があるのか」「加算が必要なら、せめて助成や還付を行うべき」などと、疑問を呈する声のほうが圧倒的に多い。
コンタクトレンズの処方など、胎児や母体に配慮する必要がない診療にも一律で加算されることや、診察後に外見を見て「もしかして妊婦さんですか? それならお会計変わります」と病院の受付で言われ、妊娠していない人と同様の診察しかされていないのに加算された事例などもあり、制度の矛盾への批判も高まっている。
妊娠や出産の際には、通院の機会も増え、保険が効かない診療も多い。ただでさえ出費がかさむ中で、さらに自己負担を上乗せする「妊婦加算」に、「少子化の時代に逆行している」という声が上がるのもうなずける。
さらに、前述のように、妊婦という理由で配慮する必要のない診察にも一律で加算する方針にも疑問が残る。
手厚さが増す子育て世代への支援
凍結に至った大きな理由として、政府の思慮が足りていなかったことが挙げられる。しかしそもそも、妊婦や子育て世代への支援の「ねじれ」こそ、問題ではないだろうか。
少子化対策として、政府や自治体は、さまざまな補助や支援を行っている。女性が妊娠や出産をきっかけに会社を辞めた場合、雇用保険の「失業給付の受給期間の延長」を受けることができ、仕事は辞めず、産休(産前産後休業)や育休(育児休業)を取得する場合は「出産手当金」と「育児休業給付金」が受け取れる。
妊娠中の健診には、「妊婦健診費用の補助」(自治体によって異なる)を受けられ、出産後は、加入している国民健康保険や健康保険などから、子ども1人につき42万円の「出産育児一時金」が支払われる。この金額を分娩費用としている産院も多い。
その他、自治体によってさまざまな補助や付加給付などを行っている場合もある。さらに「出産育児一時金」や「育児休業給付金」など、20年前と比較して金額が約25~40%アップしているものもある。出産・育児に対する制度は手厚さを増し続けている。
さらに、子供を預けたいのに預けられない「待機児童問題」の解消に向けて、国や各都道府県は積極的に保育所増設に向けての補助を行っている。保育料も、保護者が毎月負担する金額の数十倍の運営費が、児童1人ごとにかかっており、不足分は公費で賄われているのが現状だ。
減税こそが一番の少子化対策
政府がさまざまな少子化対策を打ち出す中で、「妊婦加算」という当事者の負担を増す制度が登場したため、違和感が強まり、強い反発を招いたのではないだろうか。「妊婦加算」や出産・育児への補助や支援は、将来的な医療の充実や少子化対策として有効なものなら、続行すべきだろう。しかし、一番効果的な少子化対策ができていない。
現政権は来年10月1日に消費税率を8%から10%へ引き上げるとしているが、これまで消費税が導入・増税されるたびに、子育て世代の給料が減り、将来への不安を高め、少子化を加速させてきた。
政府は10%への増税を「全世代型の社会保障」のための財源確保としている。しかし、増税よりも減税こそが、景気を回復させ、子育て世代の所得を増やすことになる。夫の給料が上がれば、子育てにかかる費用の不安も薄まる。妻が子供を預けて無理に働きに出る必要がなくなれば、家で子育てをする家庭も増える。2人目、3人目の出産にも前向きになれ、出生率も上がっていくだろう。
「妊婦加算」の凍結をきっかけに、政府は本当に必要な少子化対策が何かを考え直すべきだ。
(駒井春香)
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