沖縄の「ハワイ超え」の秘策 それは「沖縄を宇宙へ行く島」にすること
2018.11.06
今年2月、2017年の沖縄の観光客がハワイを超えた、と報じられた。
だがこのほど、ハワイ側が確定値を上方修正。沖縄の観光客939万6200人よりも、ハワイが8146人多くなり、沖縄の「ハワイ超え」が幻となったことが分かった。
ハワイ超えを達成できなかったことは残念だが、沖縄にとってもっと大事な問題がある。
例えば、ハワイと同じぐらいの観光客が来ているにもかかわらず、その人々が滞在する時間や使うお金がハワイに比べて半分以下であること。また、ここ数年、沖縄の1人当たりの県民所得が横ばいであること、などだ。
戦争の爪跡や基地関連など「政治的な問題」に注目が集まりがちな沖縄だが、今回は、そのイメージを一度脇に置いて、沖縄を発展させる秘策について紹介する。
(※2018年8月号記事の一部を再掲。数値や識者の肩書きなどは当時のもの)。
◆ ◆ ◆
Interview
大きな可能性を秘めた沖縄の宇宙産業
宇宙ビジネスコンサルタント
大貫 美鈴
プロフィール
(おおぬき・みすず)スペースアクセス株式会社代表取締役。日本女子大学卒業後、清水建設の宇宙開発室で企画・調査・広報を担当。宇宙航空研究開発機構(JAXA)での勤務を経て独立。国内外の商業宇宙開発の推進に取り組む。著書に『宇宙ビジネスの衝撃』(ダイヤモンド社)がある。
2005年に17兆円だった宇宙ビジネスの世界市場は、16年までに33兆円に拡大しました。イーロン・マスクが立ち上げた「スペースX」社に代表されるように、民間企業がけん引しています。
今、各国では「商業スペースポート」の建設に向けた動きが加速しています。これは、ロケット発射場に限らず、飛行機のように飛び立って宇宙空間を経由し、世界のどこにでも1時間前後で移動できる「サブオービタル輸送機」の離着陸の拠点にもなる「宇宙港」です。アメリカにはすでに10カ所あります。
商業スペースポートは観光業ととても相性がいい。観光という強みを持つ沖縄に誘致すれば、必ずしもロケットなどの機体を造る企業がなくても、空港のように「場」を提供することで周辺に関連産業が生まれます。
経済効果は数百億円!?
〈上〉2月、米フロリダ州のケネディ宇宙センターで、試験発射に成功したスペースX社のロケット「ファルコンヘビー」。〈下〉ファルコンヘビーの打ち上げ時、現地には10万人以上が訪れた。
大衆化するまで宇宙旅行が富裕層向けであっても、打ち上げを見守る人々が楽しめるディズニーランドのようなテーマパークやホテル、宇宙に関する教育や訓練、医療などの機関、沖縄独自の食や文化に親しむ施設など、あらゆる産業が関われます。
例えば、スペースポートの申請をしている米ハワイでは、現地のハワイ大学の学生たちが性能の高い小型衛星をつくっています。誘致を進めれば沖縄の大学にも人材が集まり、企業との連携もできるでしょう。
小型衛星の打ち上げ需要は、世界的にも右肩上がり。国内外で「順番待ち」の状態です。ショッピングモールの駐車場の車の数を時系列で分析して経営計画を立てたり、位置情報を自動運転の車と連動させたり、すでに私たちの生活と深く関わっています。
衛星データを沖縄で生かすとすれば、魚群探知や気象データによる作物の生育予測のほか、銅、鉛などの金属やレアメタルといった海底資源探査、医師不足の離島における遠隔医療など、さまざまな分野に活用できます。
2017年に日本政策投資銀行は、「宇宙のまちづくり」を掲げる北海道大樹町がロケットの発射場を誘致した場合の道内への経済波及効果を年間267億円、新しく生まれる雇用を2299人と試算しています。沖縄も北海道に匹敵する、大きな可能性を秘めていると思います。
宇宙を通じて地域を豊かに
スペースポートが成立する要件は大きく5つです。(1)「安全」。陸域飛行経路に人口密集地がないか。救難・医療設備、燃料補給エリアがあるか。(2)「政策」。有人宇宙飛行のための法律や規定、ガイドライン、優遇税制や資金調達をしやすくする環境整備も求められます。(3)「技術」。輸送機を運航できる施設、メンテナンスの技術・人材を確保できるか。(4)「事業」。アクセスがいいか。周辺に観光資源があるか。コスト面で成立するか。(5)「環境」。生態系に悪影響を及ぼさないか、という点です。
沖縄に当てはめると、(1)(3)は既存の空港・基地でのノウハウがあり、(2)は日本全体の問題。(4)は十分に満たしており、(5)は建設時の課題―。かなり成立要件を満たしています。
沖縄に限ったことではありませんが、スペースポートを誘致する地域は、すでにある利点を明確にし、調整や努力次第で利点にできるものを整理する。そうしたことを行う草の根的な運動で市町村、都道府県を巻き込んでいくことが大切です。あらゆる要件を満たしても、地元の人々の意志や理解がなければ何事も成し遂げられません。
宇宙利用で、さまざまな立場の人や組織が協力し、地域を豊かにする。それも宇宙の魅力の一つかもしれません。
【関連記事】
2016年8月号 未来産業のたまご 第6回 - 月が「最寄駅」になる時代
https://the-liberty.com/article/11499/
2010年4月号 1000万人の雇用創出計画 フロンティアは海・空・宇宙にあり
「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
「ザ・リバティWeb」協賛金のご案内
YouTubeチャンネル「未来編集」最新動画