米中間選挙の争点は「減税」 きわ立つ、日本の経済論争の偏り
2018.09.22
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《本記事のポイント》
- 米中間選挙の争点は「減税」だが、自民党総裁選の争点は不明確
- アメリカで当たり前に出てくる「減税で賃上げ」という議論
- 減税で賃金が自然上昇するアメリカ vs. 助成金で無理やり上げる日本
アメリカでは11月に予定されている中間選挙を控え、政策論争が活発化している。そんな中、最大の争点の一つは「減税を続けるかどうか」だと、17日付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が社説で指摘した。
非常に分かりやすい争点だ。それに引き換え、先の自民党総裁選での経済論争には、争点らしい争点がなかったように見える。
安倍晋三首相が注力し、総裁選でも成果を強調していたのが「政府主導の賃上げ」だ。
2018年度税制改正では、「3%賃上げをしたら法人税を減税する」という賃上げ税制を導入した。
さらに2019年度には、"バラまき強化"による最低賃金の引き上げを検討している。
政府は現在、企業が最低賃金を30円以上引き上げた場合、一律に50万~100万円助成している。
この「業務改善助成金」と呼ぶ制度を強化し、基本の助成額を70万~120万へと引き上げる。さらに、事業所内の最低賃金が800円未満の企業については、助成額を最大で170万に増やすという。
それに対して石破茂氏は、「政府がお願いし賃金が上がるのは異例」と批判した。
「それなら自由主義的に、『減税による景気回復からの賃上げ』でも主張するのか」と思いきや、代案は示さない。それどころか、消費税率の引き上げは着実に行うよう念を押すなど、別のところで「大きな政府」路線の主張を繰り出す。
これでは有権者(総裁選の場合は党員)も混乱するだろう。どちらも基本的に「大きな政府」的な政策を打ち出した上で、細かい手法をめぐって批判をし合っているのだ。近年の衆院選・参院選もそうだが、この構図こそ争点がぼやける理由だ。
一方アメリカでは、「賃金を上げるために減税をすべきかどうか」という議論が、当たり前のように出てくる。現在、減税派の主張を担っているのがトランプ政権。そのブレーンたちの掲げる論拠は、日本経済にも充分当てはまるものだ。
低賃金という形で「法人税」を払わされる従業員
まず挙げられるのが、企業への高い税金のツケを従業員が「低い賃金」という形で払っている、というものだ。
トランプ政権の経済顧問として政権入りしたケビン・ハセット氏とアパルナ・マトラ氏が2006年に法人税と労働者の賃金についての研究を発表している。
2人は、72カ国について調査し、製造業の賃金と高い法人税との間に負の相関関係があることを突き止めたのだ。
具体的には、法人税を1ドル増税するごとに、賃金は短期的に2ドル、長期的には4ドル低下するという。
法人税が高いほど、企業は賃金を低く抑えようと外国にアウトソースするようになるためだ。
この意味でも、政府は法人減税こそ実施すべきである。安倍政権の、「3%賃上げをしたら法人税を減税する」という賃上げ税制も、順序が逆といえる。
納税で精一杯で、従業員の「稼ぐ力」を育てられない
さらに、高い税金は従業員の「稼ぐ力」自体をも弱らせる。
日本の労働者の時給は、フィリピンの労働者の時給よりも高いが、それはなぜか。端的に言えば、日本の労働者の生産性がフィリピンの労働者のそれよりも高いからだ。
だからこそ鍵となるのは、生産性の高い労働者を育てることになる。
この点について、トランプ政権の経済アドバイザーであるスティーブ・ムーア氏は本誌のインタビューで、こう述べている。
「従業員が生産的であれば、給与が高くなります。日本が豊かな国になったのは、従業員の教育や技術のレベルが高かったため、よいモノやサービスが提供でき、生産的になったからです」
「税率を下げると、多くの事業で投資が行われます。従業員の一時間あたりの生産性が向上し始め、企業は従業員に多くの給与を支払えるようになります。アメリカでは、最低賃金を2ドル上げる企業も出てきていますが、『政府が企業にもっと支払え』と要求したからではありません。企業に命令を出す必要はなく、減税すると自然にそうなるのです」(2018年5月号)
つまり減税すれば、企業が教育、訓練、スキル、ノウハウ、発想力などを上げるなどの人的資本の向上に力を入れられるようになる。そうすれば生産性が上がるため、最終的には企業収益も向上する。それが賃金にも反映されるというわけだ。
減税で"自然賃上げ"が起きるアメリカ
実際にアメリカでは、減税の影響で自然に賃金が上昇している。
昨年末の大型減税の効果で、20日のニューヨーク株式市場のダウ平均株価は、およそ8カ月ぶりに終値の過去最高値を更新。同時に、失業率も2000年以来の最も低い数値で推移している。
好景気の結果、今年の4月の段階でアメリカの500の企業が、従業員にボーナスを出したり、給料を増額したりしている。
例えば、世界最大のスーパーマーケットチェーンの米ウォルマートは、採用したばかりの新規雇用者に対して1時間あたり2ドルの増額を決めた。また6ヵ月以上勤務する従業員に対しては、1時間あたり1ドルのベースアップを決めた。もし1週間40時間働くなら、1年間で3040ドル(約34万円)の増額になる。
最低賃金上げを行う企業も多く、フルタイムの従業員の給与は、最低でも4000ドル(44万)アップするという。
日本はこの現象を、これ以上無視し続けるのか。
最低賃金を設定すると、就職できない人が出てくる
一方、安倍政権のように、"力づく"で賃金を上げようとすれば、思わぬ副作用が生まれる。
人は、雇用され経験を積みながら、自分自身の生産性を高めていく。
だが、若年層は生産性が低いのが普通だ。それゆえ、若者は多少安い賃金でも、「働き始める」ということがまず必要なのである。
しかし最低賃金が高く設定されると、企業は雇用・採用そのものを減らそうとする。多くの若者は仕事に就くことさえできず、生産性を高めるチャンスも逃してしまう。
「最低賃金上げ」という考えは、意外と残酷な結果となり得る。
安倍政権は国家社会主義政権
安倍政権の「助成金を付与すれば、多くの企業が最低賃金を上げてくれるだろう」という考えも楽観的すぎる。
経営者は、利益が出続けるという見通しが立たなくては、固定費となる人権費を上げることはできないものなのだ。
こうした経営判断を簡単にコントロールできると政府が考えているとしたら、それは企業が「私有である」という自由主義経済の原理原則を踏みにじる発想だ。
大川隆法・幸福の科学総裁はこう述べている。
「 例えば、国のレベルで、『最低賃金は、一時間いくら』であるとか、こんなことが決められると思っているのであれば社会主義者でしょう。これは、完全な社会主義者です 」(『 正義と繁栄 』所収)
あまりに偏る日本の経済論争
中間選挙を前に、「減税」が争点になるアメリカ。一方、「減税」が政策どころか議論の俎上にさえ上らない日本。
マスコミには、主権者が判断を誤らないようにするために、多様な意見を国民に知らせる責任がある。複数の意見のないところに公的な領域など存在しないからだ。さて日本には、本当に自由があると言えるのか。
(長華子)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『資本主義の未来』 大川隆法著
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