北海道地震の停電パニック “予見”していた戦前の物理学者がいた!?
2018.09.19
《本記事のポイント》
- 文明が進めば、天災の被害も増す
- スマホ、EV、IoT……ますます電力に頼る社会へ
- 原発再稼動で電力のリスクヘッジを
「天災は忘れた頃にやってくる」――。
災害の周期と、人間の忘れっぽさ。この兼ね合いを絶妙に言い当てた有名な警句だが、単なる経験則的な言い伝えではない。これを残したのは、寺田寅彦という戦前の地球物理学者だとされている。
寺田博士は、東京帝国大学の教授や、帝国学士員会員などを歴任した物理学の大家だ。しかし上の警句からも感じられるように、災害というものを「地震・台風などの自然現象」のみならず、「被害を受ける人間側の性質」からも併せて研究する、独自の視点を持っていた。
そのため博士の残した知恵は、地震学などが発達した現代でも色あせない。
文明が進めば、天災の被害も増す
特に9月6日の北海道胆振東部地震で再認識させられたのが、寺田博士の次の洞察だ。
「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増す」(『天災と国防』)
地震後、道内全域が停電した。それによって酸素呼吸器が停止し、札幌市内の病院に入院していた0歳の女児が重症となったことは大きく報じられた。
他にも、「呼吸を支える酸素濃縮機が停止し、予備の酸素ボンベで不安な一夜を過ごした」というケースも報じられた。翌朝、業者がボンベを届けてくれたというが、「もし業者や自宅が被災していたら」という不安が残ったという。
また、非常用電源頼みとなった病院で、患者さんの人工呼吸器が止まらぬよう、職員がガソリンスタンドに走り、発電用の燃料を求めたという話もあった。
電力による人工呼吸を可能にしたことは、医学の大きな進歩だろう。しかしその分、使用者の呼吸は"電力インフラに預けられる"ことにもなった。電力が断たれると、多くの命が風前の灯となる構造ができていたのだ。
こうした構造は医療のみならず、交通、通信、食料供給網など、あらゆる部分に共通している。今回の停電で、北海道経済は大パニックとなった。
スマホ、EV、IoT……ますます電力に頼る社会へ
寺田博士はこう喝破していた。
「(文明が進歩すると)各種の動力を運ぶ電線やパイプが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されているありさまは高等動物の神経や血管と同様である。その神経や血管の一か所に故障が起こればその影響はたちまち全体に波及するであろう」(前掲書)
戦前に比べ生活が便利になったが、実際に、あらゆるものが電力に紐づけられていった。
こうした傾向はこれからも続くだろう。
オール電化住宅や電気自動車(EV)が普及し、生活の様々なシーンがコンピューターや人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)に支えられるようになっていく。電力が失われた際の被害や混乱も、ますます大きくなっていく。
これは災害に限った話ではない。他国によるサイバー攻撃、軍事攻撃などの際にも、こうした混乱を引き起こす急所を突いてくるであろう。
原発再稼動で電力のリスクヘッジを
もちろん寺田博士は、文明否定・科学否定をしているわけではない。あくまでも「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防御策を講じなければならない」(前掲書)と訴えている。
今回、日本人の生活や生命維持の多くを電力に依存しているにもかかわらず、その電力は苫東厚真火力発電所に大きく依存していた。「電力が国民の生命・安全・財産に直結している」という認識が不足していたことは否めない。
少なくとも電力源のリスクヘッジは必要だ。いち早く、北海道にある泊原子力発電所の再稼動を検討するべきだ。
(馬場光太郎)
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