物価上昇率、1%以下で泣いてる場合じゃない 本当はマイナスなのだから
2017.10.27
《本記事のポイント》
- もう夢か……2%目標
- 物価上昇率の「上方バイアス」
- 「バイアス」差し引くとずっとデフレ
総務省は27日、2017年9月の消費者物価指数を公表する。
恐らく、レポートは「低迷続き」という結果になるだろう。一部の見通しでは、「デフレ脱却」の目安とされる物価上昇率(前年同月比)は0.7%程度で推移。天候やエネルギー価格の変動に左右されにくい「生鮮食品及びエネルギーを除く」指数を見ると、0.2%程度と低水準が続く(ブルームバーグ調査より)。
もう夢か……2%目標
「2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現する」(2013年1月の首相所信表明演説)
こうして「デフレ脱却」を高らかに謳う安倍政権が、アベノミクスを始動させた、あの時の期待感が懐かしい。
確かにその後、「異次元緩和」の効果もあって、物価上昇率はプラスに転じたかのように見えた。しかし、消費税率が8%に引き上げられ、景気へのマイナス効果がはっきりと出始めてから、物価上昇率は、マイナスか、1%にも満たない水準が続いている。
2%の目標など、夢のまた夢に見えてくる。
物価上昇率の「上方バイアス」
さらに現実を直視すると、日本経済は「物価上昇率が1%に満たない」という状況よりも、ずっと悪い可能性が高い。
というのも、政府が発表する物価指数は、「実際よりも1%ほど高く出る」と言われているためだ。これは、「数字を操作している」というわけではなく、統計上、止むを得ない事情による。
例えば、同じテレビの値段が変わらなかったとしても、その品質や性能が大きく上がっていれば、「事実上の値下げ」になる。それを、統計では捉えきれない。
また、物価調査の対象になるのは、ある新製品が登場してしばらく経ってから。ディスカウントストアなどが流行って新規出店が相次いでも、当分の間、店舗は調査対象に入らない。
政府(日銀)の物価目標が「2%」とやや高めなのは、この統計上の誤差を含めて考えているためだ。実際に、日銀の黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁も次のように述べている。
「消費者物価指数には、物価上昇率を高めに表すといった『上方バイアス』があるため、消費者物価指数の前年比がゼロ%程度というのは、実感としては、かなりデフレ的な状況なのです」(黒田総裁、2014年12月の講演にて)
「1%のインフレ率を目標にしたのでは、実際にはデフレかそれに近い状況を目標にしていることになりかねません」(岩田副総裁、2013年10月の講演にて)
この統計上の誤差、いわゆる「物価の上方バイアス」がどれくらいあるかについては、諸説ある。「1.8%ほど高い」という説もあれば、「1%もない」という説もある。厳密に計算するのは困難だが、一般的には「だいたい1%程度」と言われている。
「バイアス」差し引くとずっとデフレ
つまり、日本の「デフレ脱却」の指標となる物価上昇率は、だいたい1%割引いてみる必要がある。
その上で、物価上昇がプラスになっている期間を見ると、アベノミクス始動以来、まだ数カ月ほどしか存在しない。それ以外は、物価上昇はずっとマイナス、すなわち、正真正銘のデフレ状態となる(上図)。
もちろん、アベノミクスの成果を全否定したいわけではない。「もし異次元緩和をしていなければ、今ごろ日本はどうなっていたか」と考えると、恐ろしい。
しかし、多くの生活者が実感している通り、デフレ脱却は遠ざかりつつある。それでも政府は、デフレを悪化させる消費税率を10%に引き上げるのだろうか。
(馬場光太郎)
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