出光と昭和シェルの合併騒動 「海賊とよばれた男」が残した神道イズム
2016.08.11
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石油元売り大手「出光興産」と「昭和シェル石油」の合併をめぐって、出光の創業者一族が強硬な反対姿勢を見せている。創業家の出光昭介名誉会長は8日付で、長男ら3者と共に、合計で21.18%あまりの株を共同保有することにし、徹底抗戦の構えをとっている。
中東情勢が対立の原因
この対立の背景には、産油地域である中東に対する経営方針の違いがある。
出光は過去に、欧米の石油企業の反発に遭いながらも、イギリス艦隊の「イラン封鎖」をかいくぐって、イランから石油を輸入。その結果、今でもイランとのパイプが強い。その一方で、欧米企業である昭和シェルは、イランと対立するサウジアラビアとの関係が深い。
両国は、今年初めに国交を断絶していることから、両社が合併すれば、今後の取引に大きな影響を受けかねない。そのため創業者側は、合併に反対しているのだ。
「日本人が世界の混乱を救う民族である」
出光の創業者・出光佐三は、大ベストセラー本の『海賊とよばれた男』(百田尚樹著)のモデルとなった人物として知られ、今年12月には、映画化も予定されている。
その佐三が築いた、出光の独特な経営体質のもとにある5つの考え方が、今回の反対の一因となっている。それは「人間尊重、大家族主義、独立自治、黄金の奴隷たるなかれ、生産者より消費者へ」の5つからなる。
「人間尊重」は、個人の人格を重視することを指し、「大家族主義」とは、社員は家族であるということ。そのため、社員の首は絶対に切らない。
そして、「独立自治」とは、個人の仕事を完遂させるとともに、全体で一糸乱れぬ組織仕事をすることであり、「黄金の奴隷たるなかれ」とは、出光の目標はあくまでも事業の拡大にあって、金ではないことを意味する。最後の「生産者より消費者へ」とは、消費者の利益を優先し、社会と共に歩むということだ。
こうした方針の結果、出光では、労働組合は存在せず、定年退職もない。独自の経営体質は、合理的な発想を持つ外資系の昭和シェルとは、肌が合わないと見られているわけだ。
創業者の佐三は、かつてこう述べたことがある。
「僕は以前、新入社員の母親に『お母さんに代わってこの子を育てますよ』と言ったと述べた。経営者がこんなことを言う企業なんて、西欧にはありゃしない。しかし、この『親の愛情で』という経営の姿勢は、今こそ必要なときじゃないか。金ずくの経営や、人を目先の能力で見る企業は、これからの日本を豊かにできないと思う。現在、僕は『日本人の世界的使命』ということを説いている。日本人が世界の混乱を救う民族であるということだ」
「神道的経営」を具現化
宇佐神宮南中楼門(画像はWikipediaより)。
しかし、なぜ佐三は「日本人の世界的使命」を語るまでに至ったのか。そこには、彼の生い立ちに関係がある。
実は佐三は、大分県・宇佐八幡宮の神主の子孫として生まれ、幼少の頃から、信仰心の篤い家庭で過ごした。後年、全国神社総代会の副会長を務め、参拝者が減っていた福岡県・宗像大社の再建にも私財を投じるなど、神社界に多大な貢献を果たした。
佐三が重んじた神道的価値観が、独自の経営体質を体現したと言えるのだ。その信条を示すものとして、次の言葉を残している。
「私は神に対しては次のような考え方をしている。即ち古歌に『心だに誠の道に叶いなば 祈らずとても 神や護らむ』とある如く、心の中の誠が神そのものである。我々は心の持ちようによりては何時でも神であり得るのである」
佐三は、神に恥じない「誠の心」を大切にしていたことが分かる。
今回の合併問題は、単なる企業の買収騒ぎではなく、次の2つの見方を見出すことができるだろう。一つは、日本と欧米との伝統の違いが経営方針の違いとなって現象化していること。もう一つは、安全保障の面から見ると、日本が独自に石油を調達できる手段を有するか否か、という点である。
(山本慧)
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