超辛口の言論で左翼文化人や官僚をなで斬りにした谷沢永一氏が亡くなって、3年が経つ。

博覧強記の教養に加え、元日本共産党員としての経験から、共産主義・社会主義者たちの"手口"を白日の下にさらした谷沢氏。だが、ソ連崩壊後も左翼勢力の勢いは衰えるどころか、共産中国の台頭によって「夢を再び」と考える人たちが増殖しているようだ。

四書五経など中国古典にも通じた「現代の孟子」とも言える谷沢氏のスピリットを、今こそ復活させなければならない。生前、谷沢氏の薫陶を受けた書評家・評論家の小笠原茂氏が、縦横無尽の谷沢永一論をつづった。

谷沢永一(たにざわ・えいいち)

近代日本文学研究の第一人者。元関西大学文学部教授。文芸評論家、書誌学者。1929年大阪生まれ。著書に『人間通』『悪魔の思想――「進歩的文化人」という名の国賊12人』『司馬遼太郎の贈り物』などがある。2011年3月逝去。

小笠原茂(おがさわら・しげる)

書評家・評論家。1945年仙台市生まれ。書評、評論を中心に執筆活動を続ける。著書に『好きでこそ読書』『中国人とは何者か』がある。

(前編から続く)

さて、横田にはもう一つ、皇室を槍玉に挙げようとした本がある。その時期は昭和22年10月20日、出版された本は『戦争の放棄』である。その第一章から引用する。

「民主主義の徹底という点から見れば、日本の新憲法などはまだまだ不十分であり、微温的というべきものである。一つの例をあげてみれば、天皇制を維持したこと、つまり君主制を保存したことがそうである。天皇が君主であることは、いうまでもない。しかし、君主の存在は、徹底した民主主義とは、相容れないものである」

しかし横田がこれほど「徹底した民主主義」を強調しても、現実に立憲君主国は存在している。イギリス然り、オランダ然り。デンマーク、ベルギーにタイもある。こういう具体例にわずらわされぬように、横田は「徹底」という決め言葉を考えたのであろう。「徹底した民主主義」という概念はいくらでも極端にふくらますことができ、「天皇制否定」の論理を紡ぎ出すのに都合がよいと谷沢永一は分析する。