自民党は20日、参院選の公約を発表した。国際的にも評価の高い「アベノミクス」を前面に押し出し、投資減税や法人税の大胆な引き下げを盛り込んだ。経済の実績をアピールして、参院選では安定した戦いを目指す。

その一方で、踏み込み不足の論点も目に付く。連立を組む公明党に配慮して、憲法96条の先行改正には踏み込まず、憲法改正の発議要件緩和を憲法改正草案の主要項目の一つとして並べただけだった。

交渉参加を決めた環太平洋経済連携協定(TPP)にいたっては、反対派の目を意識して2つの表現を書き分ける玉虫色の内容になった。公約には「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を追求」と前向きに進める方針を明記した。しかし、同時に発表された総合政策集では、米や麦などについて「聖域(死活的利益)が確保できない場合は脱退も辞さない」としている。

昨年末の衆院選で地滑り的勝利を収め、いまだに高い支持率を維持している安倍自民党には、批判されるのを避けて確実な戦いをしようという計算がある。

しかし、選挙で勝つために言うべきことを言わないというのは、政権与党としての責任感を欠いているのではないか。例えば、中国や北朝鮮の脅威は、国の存亡に関わる早急に手を打つべき大問題であり、もはや先延ばしは許されない。しかし自民党は憲法9条改正を言わないばかりか、その前段階である96条改正さえも、批判を恐れて公約に書けなかった。

批判されそうな論点を選挙前に引っ込めるのは、日本の政治の常道になってしまっている。思い出されるのは2009年の衆院選である。自民党は民主党やマスコミからのバッシングに押されて、野党にすり寄った左傾化した公約を発表し、あっけなく民主党に敗れた。今回も政権復帰後半年で、自民党は民主党に敗れる前のかつての自民党に戻ってしまったかのようである。

その点、気を吐いているのが2009年の立党以来、批判を恐れずに国防強化を訴えてきた幸福実現党だ。同党は今回の参院選でも、憲法9条改正を公約に掲げて、真っ向から国防強化を主張している。

ここのところ安倍晋三首相のお気に入りのフレーズは「Japan is back(日本は戻ってきました)」だが、重要論点を隠して選挙の勝利と政権維持を最優先する姿勢は、かつての自民党が戻ってきたという感がある。各党とも勇気をもって言うべきことを言い、論を戦わせる正々堂々の政治が、日本に必要とされているのではないか。

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2013年7月号記事 そもそモグラの参院選の争点Q&A

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