安倍晋三首相が17日に発表した成長戦略第2弾が迫力不足であることは昨日も論じたが、とりわけ医療分野においては、それが著しい。4月に発表した成長戦略第1弾では、医療サービスや医療機器の輸出など「医療の産業化」にかかわる項目が並んでいたが、医療制度改革についての言及はなかった。そこで第2弾の内容が期待されていたが、結局、医療分野そのものに言及がなかった。
日本の医療が本当の意味で産業として自立するためには、制度自体に切り込む必要がある。その一つがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)でも議論になっている、混合診療を解禁するかどうかの問題だ。
現在は、保険が適用される通常の診療と、適用されない保険外診療とを合わせて受診すると、すべての医療費に保険が適用されなくなり、全額自己負担となってしまう。だが混合診療が解禁されれば、保険外診療部分だけが全額自己負担で、通常の診療は従来通り3割の自己負担で済む。したがって、全体の負担は今より楽になる。
一部の医療関係者は、混合診療を解禁すると、負担の大きい保険外の医療を利用する患者が増えることが予想されるため、富裕層ばかりが有利になると批判する。しかし常識的に考えれば、現行の全額負担の方が、富裕層に有利で庶民に不利な制度だろう。最新の医療技術には保険外のものが多い。これまでは高くてそれらを選べなかった人も、混合診療が認められてトータルの費用が下がれば、最新の保険外医療を選びやすくなる。つまり、より多くの人にメリットがあるのだ。
混合診療の解禁をはじめとする医療制度そのものの議論を深めることなくして、医療技術だけを進歩させたり産業化させることは難しい。成長戦略を掛け声だけに終わらせないためにも、もう一段踏み込んだ議論を望みたい。(居/村)
【関連記事】
2013年5月18日付本欄 安倍首相が野心的な「成長戦略」を発表"自民党的しがらみ体質"と戦えるか
http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=6042
2013年4月20日付本欄 安倍首相が「成長戦略」について講演 夢ある未来を投資で育てよ