3日付本欄ではイラン人女性の許しのニュースを伝えた。12日付読売新聞は、自分を撃った白人の死刑減刑を嘆願した米国のイスラム教徒男性に取材している。同紙と米ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」から紹介。
テキサス州に住むバングラデシュ出身のブイヤンさん(37歳)は9・11テロの10日後、勤め先の給油所にやってきた男に銃で顔を撃たれた。ブイヤンさんは一命を取り留めたが右目を失明。男はその数日前に移民2人を射殺していたマーク・ストロマンで、逮捕され09年に死刑が確定した。
ストロマンは白人至上主義者で、9・11テロへの怒りから中東移民を憎んで犯行に及んだという(ただし撃たれた3人とも中東ではなく南アジア出身)。ブイヤンさんは事件後、恐怖でしばらく外出できなかったが、不思議とストロマンへの怒りはなく、彼が無知ゆえに犯行に及んだことを法廷で知って哀れみを覚えた。その後、報道で彼の反省ぶりを知り、「ムスリムとしての信仰から彼を許したい」として昨年末、インターネットで同死刑囚の減刑を求める署名活動を開始。約1万人の署名が集まった。
嘆願も空しく7月20日、刑は執行された。その数時間前、二人は電話で話した。
ストロマン「あなたがしてくれたことに感謝しています」
ブイヤン「私は怒っていません。ありがとう」
ストロマン死刑囚は生前、こう話していたという。「私は愛と悲しみと怒りのあまり、とんでもない過ちを犯した(a terrible mistake out of love, grief and anger)。でも、メディアが描いて見せるような怪物じゃない(I’m not the monster the media portrays me.)」。刑の執行直前には「世界中の憎しみは終わりにしなければ」(hate in the world needed to end)と話し、神の慈悲を請うた。41歳だった。
人間は愛に基づいて怒りや憎しみを抱き、過ちを犯す存在だ。と同時に、神への信仰によって相手の罪を許す力を与えられている。罪を許す神秘の力において、イスラムのアッラーとキリスト教の神に本質的な違いはない。(司)