南シナ海の領有権問題をめぐってASEAN地域フォーラムなどで協議され、中国とアメリカの対立の構図が鮮明になっているが、こうした話し合い自体が現代の「ミュンヘン会談」ではないかという見方が出ている。

ミュンヘン会談は、1938年、チェコスロバキアのズデーテン地方の帰属問題を話し合うためにドイツ・ミュンヘンで開かれた国際会議。イギリスのチェンバレン首相らは、ドイツのヒトラーに対し、ズデーテンのドイツ帰属以上の要求をしないことを約束させて妥協する融和策をとった。一時的に戦争が回避されたが、ドイツは1939年にはチェコスロバキアに侵攻し、“ミュンヘンの平和”は終焉した。

“ミュンヘンの平和”が今の局面だという主張を、米海軍大学のジェームズ・ホームズ準教授がウェブ国際時事誌「The Diplomat」で展開している。以下、要点。

  • ジェームズ・ウェッブ上院議員(民主党、バージニア州選出)が「アメリカは南シナ海で、中国に対し、ミュンヘン・モーメント(屈辱的譲歩の時)と同じアプローチをしている」と語っている。ウェッブ氏は中国にナチス・ドイツの役割を与えている。オバマ大統領はチェンバレンであり、胡錦濤はヒトラーということになる。東南アジア各国は、国家の存在をも奪われるチェコスロバキアである。この類比はふさわしいのか?
  • アメリカは東南アジア各国に相談なく、重要な国益を中国に譲るだろうか。もしオバマがチェンバレンならば、中国に譲歩するだろう。
  • 南シナ海や台湾、尖閣諸島はすべて中国の「辺疆」であり、中国は思い通りにできると信じている。しかもナチス・ドイツにとってラインラント(ドイツ西部)やオーストリア、チェコスロバキアがそうであったように、中国にとっても“前菜”にすぎないかもしれない。
  • オバマ政権は、チェンバレン政権のように南シナ海問題をより深刻に紛糾させるだろう。それらの国の代弁者になることはないだろう。

今のところアメリカは南シナ海問題で、東南アジア各国の側に立って行動しているように見える。しかし、この話し合いの時間自体が、ナチス・ドイツに再軍備の時間を与えたように、中国に軍備増強の時間を与えているだけなのかもしれない。(織)