《ニュース》

トランプ米政権は5日に、第二次政権で初めてとなる国家安全保障戦略(NSS)を発表しました。この戦略文書は、冷戦以降に発表されたもので、「最も劇的に米外交方針を転換させた」ものとして、すでに評価され始めています。

《詳細》

NSSとは、「アメリカが求める国益とは何か」「アメリカの脅威とは何か」などを指し示す、国家の最重要文書です。アメリカが世界の覇権国家であるため、何が書かれているかは世界的な関心事項となっています。そんな中、トランプ第二次政権が打ち出したNSSは、従来の方針を一変させる衝撃的な内容に満ちているとともに、そのなかには西欧文明の危機を回避しなければならないという"予言的"なものもありました。

ニュースのヘッドラインを飾りやすい冒頭の出だしは、「冷戦後の戦略との決別」から始まります。冷戦後のアメリカは、全世界を恒久的に支配することが"最善の利益"と考え、自国の国益とは直接的に関係しないさまざま紛争に介入してきたという方針を転換させると宣言しました。その上で、アメリカが中核的な利益とするのは、以下の5つの領域です。

(1)西半球がアメリカへの大量移民を阻止・抑止できるほど十分に安定し、適切に統治されることを確実にする→具体的には、新しい脅威である麻薬カルテルの撲滅や、アルゼンチンへの支援、中国の影響力浸透の排除などです。

(2)「経済的・地政学的な戦場」であるインド太平洋は、自由で開かれた状態を維持してすべての重要航路で航行の自由を守る→具体的に軍事面では、日本から台湾、フィリピンに至る「第1列島線」の防衛強化のため、日本などの同盟国に防衛費増を求め、「台湾をめぐる紛争を抑止」することを重要事項に位置付ける。経済面では、アメリカが同盟国と連携してサプライチェーンを再編し、実質的に米中デカップリングを推進する方針を示しました。

(3)ヨーロッパの文明的自信と西洋のアイデンティティーを回復しつつ、ヨーロッパの自由と安全を守るために、同盟国を支援する→ヨーロッパは、言論の検閲や政治的反対意見の抑圧、出生率の急落、国家的アイデンティティーの喪失の問題を抱えているほか、大量移民によって非欧州系の住民が多数派になる可能性があるなど、キリスト教を基盤とした「文明消滅」の危機に瀕していると警告。さらにウクライナ戦争の停戦は、アメリカの「核心的な利益」に位置付け、ロシアとの戦略的安定を確保するとしています。

(4)敵対勢力が中東及び、石油やガスの供給、それらが通過する要衝(チョークポイント)を支配するのを防ぎつつ、中東での「永遠の戦争」を回避する→アメリカのエネルギー面の中東依存が低下し、紛争もかつてより抑制されていることから、ヨーロッパとともに中東は「現地が主役になるべき地域」に分類し直し、同盟国に自立を求めるといいます。

(5)AI(人工知能)やバイオテクノロジーなどにおいて、アメリカの技術やアメリカンスタンダードが世界を前進させられることを確実にする。

アメリカがギリシャ神話の神アトラースのごとく、世界秩序を支えた時代は終焉し、世界にさまざま混乱をもたらしてきた従来の介入主義をやめ、上記の国益に焦点を合わせながら、同盟国にも責任を果たすよう求め、世界平和を目指していくという現実的な内容となっています。

《どう見るか》