《ニュース》

トランスジェンダーの申立人が戸籍上の性別変更を求めた家事審判で、札幌家庭裁判所は性器の外観を変えるよう求める性同一性障害特例法の規定(外観要件)を「違憲で無効」とし、手術やホルモン療法なしでの性別変更を認めました。

《詳細》

2004年に施行された「性同一性障害特例法(特例法)」は、戸籍上の性別を変更するための条件として、(1)18歳以上、(2)婚姻していない、(3)未成年の子がいない、(4)生殖腺がない/永続的に生殖機能を欠く状態であること(生殖能力要件)、(5)性別変更後の性器に近い外観を持つ(外観要件)の5要件を定めています。

そのうち手術が必要となる「(4)生殖能力要件」と「(5)外観要件」については、これまでの裁判で憲法13条が保障する「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を制約しているとして判断が争われてきました。

最高裁判所は23年10月、「生殖能力要件」を「違憲であり、無効」とする判断を下しました。また、「外観要件」については、広島高等裁判所が24年7月、手術をしなくともホルモン治療を経て「性別変更後の性器に近い外見を有している」と判断して性別変更を認めており、外観要件については「違憲の疑いがあるといわざるを得ない」としていました。

9月19日の札幌家裁の決定ではさらに踏み込んで、「外観要件」を「違憲」と判断し、ホルモン療法や乳房切除手術をしていないトランスジェンダー男性の性別変更を認めました。

外観要件は、公衆浴場などで混乱が起きるなど社会生活上の混乱を生ずることを考慮して定められたと解釈されていますが、札幌家裁は「多くの当事者は公衆浴場の利用を控えるなどしており、混乱が生じることは極めてまれ」とし、外観要件によって混乱を避ける必要性は「相当低い」と結論づけました。

この決定を受けて、今後他の裁判所においても手術やホルモン療法など「身体治療なしでの性別変更」が認められる可能性がありますが、性別変更がより容易になっていくことで生まれる混乱が懸念されます。

札幌家裁は、トランスジェンダーの人は公衆浴場の利用を控えており、「混乱が生じることは極めてまれ」としています。しかし、国内外の実例を考慮する限り、性別変更が容易になれば、社会的混乱を相当程度助長すると言わざるを得ません。

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