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アメリカ大統領選に向けたテレビ討論会が10日夜(現地時間)、ペンシルベニア州フィラデルフィアで開催されました。カマラ・ハリス副大統領とドナルド・トランプ前大統領の討論会は、今回が初めてとなりました。
《詳細》
6月に行われたバイデン大統領とトランプ氏の討論会の際、バイデン氏の衰えぶりが露呈し大統領選の撤退につながったことで、今回も注目が集まっていました。討論のテーマは、経済政策や不法移民問題、中絶、ウクライナ戦争・中東戦争など、多岐にわたりました。
ただ、主催したリベラル寄りのABCの司会者(2人)の質問内容がハリス氏に偏っていたことに、批判の声が上がっています。
経済政策についてハリス氏は、「アメリカの中流階級と労働者階級を引き上げる」として、住宅支援や子育て支援を行うと述べました。そしてトランプ氏に対し、「億万長者と大企業への減税を行い、アメリカの財政赤字を5兆ドル増やすつもり」「(関税政策は)トランプ売上税(日本の消費税)だ」と批判しました。
これに対しトランプ氏は、自身は"消費税"などを課しておらず、むしろ関税によって中国から何十億ドルも利益を得たと反論。司会者から「関税による価格上昇をアメリカ人が許容できるか」との質問に関しても、「物価が上がることはない」とし、「もし彼女(ハリス氏)が気に入らないなら撤廃すべきだったが、その関税はバイデン政権下で3年半も続いている」と指摘。「私の政権ではインフレはなかったが、彼ら(バイデン・ハリス政権)はおそらく我が国の歴史上最高のインフレだった」と応酬しました。
アメリカで社会問題となっている不法移民について、司会者がハリス氏に「バイデン政権は今年6月に新たな規制を課したが、なぜ政権は選挙の6カ月前まで行動しなかったのか」と問うと、「私はこの壇上で、銃、麻薬、人身売買の罪で(検事として)国際犯罪組織を起訴した唯一の人物」「議会は今年、アメリカ上院の最も保守的な議員を含む、私が支持する国境警備法案を提出したが、トランプ氏がそれに反対した」と話をそらし、トランプ氏への批判に切り替えました。
ですが司会者はそれ以上の追及はせず、トランプ氏の不法移民の強制送還計画に話を移し、「1000万人を超える不法移民をどうやって国外追放するつもりなのか」「具体的に、どのような内容か。戸別訪問でもするのか」と詳細に質問。同氏が「不法移民のせいで犯罪率が高くなっている」と答えると、司会者は「FBIは、暴力犯罪は減少していると発表している」と発言。トランプ氏は「FBIは虚偽の発表をしている。最悪の都市が含まれていない」と反論しました。
さらにウクライナ戦争の話になっても、司会者の「あなたはウクライナに戦争に勝ってほしいと思うか」の質問に対し、トランプ氏は「私は戦争を止めてほしい。無駄に殺されている人々の命を救いたい」と回答しましたが、司会者は「ウクライナがこの戦争に勝つことがアメリカにとって最善の利益になると思うか」と同様の質問を繰り返しました。トランプ氏は「この戦争を終わらせることが、アメリカにとって最善の利益になる」と答えています。
その一方、バイデン政権のアフガニスタン撤退の混乱について問われたハリス氏は、「私はバイデン大統領のアフガニスタン撤退の決定に賛成した」と回答した上で、「トランプ氏はタリバンというテロ組織と直接交渉した」と批判。これに対しトランプ氏はバイデン政権の撤退について批判しましたが、司会者は「先に進みたい」とそれ以上の追及を止め、ハリス氏をかばいました。
そのほか、司会者は「2021年1月6日の米連邦議事堂襲撃事件について」や「2020年の選挙結果を認めないのか」「トランプ氏の『ハリス氏が突然、黒人に変わった』という"人種差別"的な発言はいいのか」など、トランプ氏の攻撃材料になるような質問ばかり浴びせました。
トランプ氏は討論会後、自身のSNSに「3対1だったが、最高の討論会だった」と投稿。実際、ハリス氏への司会者の追及は甘い一方、トランプ氏には「イエスかノーかで答えてください」と詰め寄る様子が何度も見られました。米FOXニュースは「司会はトランプ氏の発言を5回ファクトチェックしたが、ハリス氏の発言は一度も訂正しなかった」と指摘しています。
討論会の結果について、保守メディアのFOXやリベラルメディアのCNNなど主要メディアは、「ハリス氏の勝利だった」と報道しています。ただ個別に見ると、CNNの調査では、経済政策や不法移民問題についてはトランプ氏が20ポイント以上の差をつけており、軍の最高司令官としての役割についても9ポイントリードしていました。
ハリス氏をめぐっては、「台本を読み上げることはできるが、即興の質問には対応できない」と批判されていただけに、前回のバイデン氏のような目に見える失態もなく、予想外に善戦した印象を見せました。ですが討論の中身をつぶさに見れば、ハリス氏は自身の弱みにつながる質問には明確に答えず、逃げの一手に出ました。明らかな事実誤認もありましたが、民主党バイアスの強い司会者からの追及はありませんでした。
そうしたハリス氏に対し、トランプ氏は討論会の最後の締めで、象徴的な言葉を突きつけました。
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