30年に及ぶ日本経済の停滞を打開するためには、いかなる困難にあっても自らを奮い立たせ、世の中に利益を還元する姿勢が必要だ。そこで、経営者のあるべき姿について、2人のビジネスリーダーに話を聞いた(2018年11月号記事より再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)。
◆ ◆ ◆
佐々木常夫
(ささき・つねお)東京大学卒業後、東レに入社。2001年、同期最速で東レ取締役となり、03年、東レ経営研究所所長に就任した。内閣府の男女共同参画会議議員や大阪大学客員教授なども歴任。
最近、働き方改革が話題になっています。私は東レ時代に無駄な残業をなくし、仕事と家庭を両立させてきたことから、今も講演依頼が舞い込んでいます。
気になるのは、「働くのが嫌だから、プライベートの時間を多くしたい」と考える人が増えていることです。ですが本来の働き方改革は、プライベートの充実のためではなく、「個人も会社も共に成長するための経営戦略」であるはずです。
人生最大の目的は、「自分を磨くこと」です。すなわち、「人格を磨く」ことで人は成長します。人は困難を克服する時に磨かれ、成長を実感する時に大きな幸せを感じます。
本来、人は、生活の糧のために働くのではなく、仕事を通して自分を磨き、世の中に貢献する存在なのです。私は仕事だけでなく、育児や家事、介護も一生懸命行ってきました。
困難を「幸福の種」に
私は6歳の時に父を亡くし、母が女手一つで4人の子供を育ててくれました。私も学費を自分で稼ぎました。結婚してからは、妻が肝臓病とうつ病をわずらい、3度の自殺未遂。入退院は40回を超えました。自閉症の長男は学校でいじめに遭いました。
「なぜこんな目に遭うのか」と思いましたが、母の言葉が支えになりました。母はいつも微笑みながら、「どんな運命でも引き受けようね」と言っていました。私も「どんな悲しみや苦しみも、神様からの贈り物だ」と考えるようになり、「困難があっても、乗り越えよう」と心を奮い立たせました。
例えば当時中学生だった長男がいじめを受けた時、担任に対応を求めましたが、一向に解決しませんでした。そこでクラスメイト約20人を自宅に呼び、「障害のある人を助けるのが、人としての務めだ」と2時間半かけて話しました。すると翌日、いじめがなくなったのです。
一見不幸に見える出来事も、「幸福の種」に変えられます。私は障害者の子供と病気の妻を持ったことで、周りの社員たちに優しくなれました。
また家族の治療費が年間400万円ほどかかり、退職間際までほとんど貯金ができませんでした。しかし、こうした体験を記した著書を出版すると、ベストセラーに。「本が売れたのは、神様からの報酬だ」と思います。
思いやりと真摯さ
私は「いい会社とは、お客様と社員を大切にし、利益を出す会社だ」と思っています。
例えば8月末、中央省庁の障害者雇用の水増し問題が明らかになりましたが、IT企業「アイエスエフネット」は、障害者の雇用比率が約2割です。渡邉幸義社長は「会社は家族、社長は親」と述べています。「社員を家族のように考える日本の伝統的な精神」は、変えてはいけないと思います。
ビジネスリーダーには、家庭のことは一切せずに尊敬されている人もいます。しかし、仕事も家庭も両立させるのが、人としての義務ではないでしょうか。
私は、リーダーに必要な資質は、「思いやりと真摯さ」だと思います。周りの人への思いやりや真摯さがなく、会社の成果だけを誇る人は、具合の悪いリーダーでしょう。(談)
【関連書籍】
『大恐慌時代を生き抜く知恵』
幸福の科学出版 大川隆法著
【関連記事】
2018年11月号 「将の器」がGDPを再び伸ばす「人格経営」のすすめ Part 1