福島原発事故後、原子力批判が高まっている。だが、そうした世論に対して、4月19日の米紙シカゴトリビューンは社説で、二酸化炭素ガスを排出しないエネルギーとしては原子力が中心にならざるを得ないと述べている。以下、趣旨を簡単にまとめる。

・今回の福島の原発事故により、世界的に原子力産業を揺るがしたことは否定できない。AP通信の世論調査によれば、米国人の6割は新たな原発の建設に反対している。これは2009年9月の48%から上昇している。

・政府や電力会社はこの危機に照らして、原発のあり方を早急に見直すべきである。例えば、テネシー川流域開発公社は所有する6基の原発の地震・洪水対策の改善に数百万ドル支出する考えを示した。

・しかし、福島の事故で勢いづいた原発反対派が主張するように、原発を制限したり廃止するのは近視眼的である。風力や太陽光などの再生可能なエネルギー資源は重要性を増しているが、二酸化炭素の排出を最小限に抑えられる発電源の中心は原子力である。

・産業界にとって今回の日本の事故は最悪である。環境保護論者さえ化石燃料発電の代替手段として認めるほど、近年、原子力への人気が高まりつつあった。だが、いまや福島はチェルノブイリ、スリーマイルに続いて原発の亡霊を呼び起こしてしまった。1979年のスリーマイル島の原発事故もアラブの石油禁輸で原子力の人気が高まっているときに起きた。原子力に対する米国の信頼は失墜し、新たな原発計画は中止された。そこにチェルノブイリ事故が発生。「原子力=ハイリスク」というイメージが米国人の心理に根付いてしまった。

・結果、米国の原発の老齢化が進み、104基あるうちの半数以上が少なくとも30年以上経っている。過去20年の間に建設されたのはたった3基だ。電力会社は、より多くの電力を生産するために、既存の原発を改良して運転能力を上げている。これは、新しい原発を建設するより費用対効果は高いが、安全性への懸念が高まっている。

・原子力はリスクが伴う。だが、これらのリスクは、化石燃料の利用にかかるコストと比較して考えなければならない。ほかにも、化石燃料の二酸化炭素排出は当然、昨年のメキシコ湾の石油流出や石炭採掘の際の致命的な事故などと比較すべきだ。

・不安が鎮まり、原発が再び受け入れられれば、電力会社は将来の原発の設計に熱心になるだろう。

原発に対する恐怖心が広がり、反原発運動も各国で起きているが、原発を手放すことは決して賢明ではない。日本における原子力発電の電力量は総発電電力の約30%を占め、天然ガスと並んで最も多く、原子力の活用は不可欠だ。必要なのは、安全性を強化する方向で原子力技術の開発と活用を継続することだ。(吉)

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