1.はじめに
前回は、14世紀ルネサンス前の錬金術をニコラ・フラメルから見てみました(※1,2)。ニコラ・フラメルは、当時の知識人層であるカトリックの修道院僧侶ではなかったのですが、錬金術を成功させ、著作もあることから、代表的な錬金術師として名を残しています。
12世紀ルネサンスとも呼ばれている、カトリックの修道院での錬金術は学問的なものだったようで、実践として金の生成に成功したという文献は残っていないようです。一方、ニコラ・フラメルは実践的なもので金の生成に成功したと伝わっており、その実験内容は現代から見るとかなり神秘的な内容を含んでいます。これから見ると、カトリックの世界では本来の錬金術が持つ神秘性が認められず、霊性がかなり失われてしまったようです。
そこに、神秘性がヘルメス文書とギリシャ哲学を通して入ってきたのが、14世紀のルネサンスです。ルネサンスというと芸術が栄えた明るい時代を想像してしまうのですが、この時期のヨーロッパでは、黒死病として知られるペストの大流行(パンデミック)、小氷河期(気候変動)、ビザンツ帝国の滅亡等(ローマ時代の終焉)といった大きな天変地異と社会変化が起こり、カトリックに代表される西ローマ帝国からの中世キリスト教世界観がゆらぎ、中世キリスト教世界が終焉を迎える時代でもありました。
ヨーロッパでは、この14世紀ルネサンスから宗教革命、産業革命、市民革命といった三大革命を経た近世・近代から現代に至ると言われています。現代の科学技術の源流としてのヨーロッパの錬金術とはどのようなものだったのかという観点から、14世紀ルネサンス時代を見てみましょう。