安倍晋三首相は、2017年の春闘に向けた賃上げを経済界に要請する。賃上げ要請は4年連続で、今年は、16日に開かれる「働き方改革実現会議」で要請される。それと合わせて、長時間労働の是正や、女性・非正規労働者などの待遇改善も求める方針だ。日本経済新聞がこのほど報じた。
政府は、過去最大規模となる377兆円という企業の内部留保を賃上げに回させたい考えだが、経済界は慎重な姿勢を崩していない。賃上げ圧力だけではなく、電通の過労自殺問題に代表するように、労働時間の短縮を求める流れも強まっているためだ。
つまり、企業側は、賃上げと労働時間の削減を同時に要請されているのだが、唯々諾々とこれを受け入れるわけにはいかない。労働時間を短くして賃上げすれば、企業の収益が悪化する可能性がある。そうなれば、雇用を守ることができず、元も子もなくなる。
注文の多い安倍政権
あまり指摘されていないことではあるが、安倍政権の「働き方改革」はあまりに国家ビジョンなき政策と言えるのではないか。
その中身を見ると、長時間労働の抑制や、同一労働同一賃金の実現、女性の活躍に向けた待遇改善、ワークライフバランスの実現、子育て支援など、ありとあらゆるメニューを詰め込んだ印象がぬぐえない。さらに政府内では、国際ルールに反して、内部留保への課税論も浮上しているのだから、もはや何でもアリだ。
政権が掲げる一億総活躍の政策は言ってみれば「社会主義的」であるのだが、恐ろしいことに、これを批判するメディアも少ない。これが、安倍政権の何でもアリを食い止められない大きな理由である。
確かに、日本企業の画一的な働き方に問題があるのは事実だろう。だが、働き方と共に、企業活動の自由を広げる政策も合わせて行わなければ、経営側の自由がどんどん制約されかねない。政府は、個々の企業に口出しをするよりも、規制緩和や財政出動などの成長戦略を打ち出すべきだろう。
(山本慧)
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