31日付けインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に、ブルームバーグ社の主幹ジャーナリストA・R・ハントが「エジプトにおける自由対安全保障」と題する論説を載せている。日本人には分かりづらい米政権の複雑なスタンスを紹介していて参考になるので、抜粋して紹介する。

・近年の米大統領は皆、世界中の民主的価値観と人権を促進することと、安全保障や米国の国益を守ることの間で揺れてきた。彼らは、エジプトの民主化を促進することに関する、どっちつかず(ambivalent)の感情を抱えていたのであり、オバマ大統領もその点で前任者たちに一致している。

・今回も、先週水曜にエジプトのデモが始まった時点では、ワシントンは中東情勢の安定と米国にとってのエジプトの重要性を強調し、バイデン副大統領は「ムバラクは独裁者ではない」とまで主張していた。

・だが金曜になってデモが加熱すると、米国は「ムバラク政権がデモを鎮圧するなら、アメリカはエジプトに対する支援金(年間15億ドル=約1200億円)をカットする。アメリカはエジプト国民の権利を支持する」と言い出した。こうした発言の変化に、米国の揺れるスタンスが表れている。

・エジプト国内には、米国が30年以上にわたり一貫してムバラク独裁政権を支持してきたことに対する反米主義が潜んでいる。ある米政府筋は、反米の中心的存在であるムスリム同胞団がムバラク後の政治パワーとして最有力の存在となることを恐れている。

背景には、ムバラク政権がアラブ諸国のなかにあって親イスラエルの立場をとり、イスラエルを支援する米国にとって都合がいい存在だった事実がある。そのムバラク政権の崩壊は、民主主義や人権という普遍的価値を唱導する米国にとっては好ましいが、中東の安定を望む米国にとっては先が見えない不安な事態なのだ。米国の「板ばさみ状態」を知ることが、複雑な中東情勢を理解するヒントになる。(T)

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