2016年3月号記事
夢創造 代表取締役社長
野口 勝明
(のぐち・かつあき)1956年、栃木県那珂川町生まれ。大学で化学を専攻した後、環境コンサルティング会社を経て、84年、株式会社環境生物化学研究所を設立。2010年、株式会社夢創造を設立した。
未来産業のたまご
第3回
「なぜ」の積み重ねが新しいアイデアを生む
世界的な食糧危機を救う可能性を秘める「陸上養殖技術」。
日本にはこの分野でハイレベルな技術がある。そのうちの一つ、温泉水による、とらふぐ養殖事業に取り組む野口勝明氏に話を聞いた。
出荷直前の温泉とらふぐ。つかむと膨らむ。
「今でこそ有名だけど、『とらふぐ』って初めて聞いた時には『こんな山の中で?』と思いましたよ」
タクシードライバーが驚くのも無理はない。栃木県那珂川町。山と川に囲まれた自然豊かな「海のない」町に、「海水魚」であるとらふぐを陸上養殖する「株式会社夢創造」はある。
温泉水の成分と熱に秘密
通常、真水では海水魚は育たない。夢創造の社長を務める野口勝明氏は、那珂川町の温泉水の成分に着目した。
「ここら一帯から出る温泉水は塩分を含んでいるんです。その 塩分濃度は0・9%で、魚の体液の塩分濃度とほぼ等しい。淡水海水問わず、あらゆる魚が一番生きやすい濃度なんです 」
海水魚はえらから塩分を排出することで、体内の塩分濃度を一定に調節している。夢創造の温泉水では、えらで塩分濃度を調整しなくてよい分、栄養分をロスなく取り込むことができる。
温泉水の熱も一役買っている。
とらふぐは温帯性の魚であり、冬場になると、暖かい南シナ海に南下する。しかし、通常の養殖では南下できないことから、寒さに耐えるため冬眠状態になり、餌を食べなくなる。
一方、夢創造では、温泉の熱で一年中暖かい環境をつくる。とらふぐは冬眠しなくて済み、その間も餌を食べ、成長できる。 とらふぐの出荷サイズである1キログラムに成長するまでの期間は、冬眠をはさむ養殖では1年半だが、温泉とらふぐは1年。毎年出荷できるのだ 。