佐鳥氏は、2015年4月、千葉県に開学した「日本発の本格私学」であるハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)でも宇宙工学系のゼミを担当。学生たちと19年に人工衛星「HSU―SAT」の打ち上げを目指す。
2016年1月号記事
佐鳥新
(さとり・しん) 1964年、青森県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻を修了後、宇宙科学研究所(現JAXA)で、小型惑星探査衛星「はやぶさ」のイオンエンジン開発に携わる。1997年から北海道工業大学(現・北海道科学大学)に勤務。著書に『科学が見つけた神の足跡』(幸福の科学出版)。
未来産業のたまご
アイデアの全体像が心の中に
ポーンと浮かんでくる
「宇宙の果てはどうなっているのか」。誰もが一度は疑問を持つのではないだろうか。
宇宙の神秘に憧れ、宇宙開発の第一線で活躍する佐鳥新氏に話を聞いた。
2003年、日本の宇宙開発に大きな「金字塔」が打ち立てられた。小惑星探査機「はやぶさ」が、世界で初めて小惑星のサンプル(試料)リターンに成功したのだ。7年間、60億キロにも及ぶ長旅を支えたのは、「心臓部」であるイオンエンジンだった。
佐鳥氏は、その新エンジン開発に携わっていた人物だ。
同氏は研究者であると同時に、「実業家」としての顔も持つ。
様々な分野で応用が期待されているハイパースペクトルカメラ。
大学発のベンチャー企業・北海道衛星株式会社を立ち上げ、代表取締役を務める。宇宙開発で培った技術を応用したハイパースペクトルカメラ(以下、ハイパー)の研究開発を2003年から始め、製品化し販売している。
ハイパーは科学の未来を切り拓く大きな可能性を秘めている。
通常のデジタルカメラは可視光を捉えるのに対し、ハイパーは赤外線や紫外線など目に目えない光も捉える。色の変化を捉える能力は通常のデジタルカメラの約50倍だ。
「HIT―SAT」は、衛星通信の基礎データ取得などさまざまな実験を行い、2008年、大気圏に再突入し、役目を終えた。
「例えば、食品の鮮度など、見えないものも可視化できます」(佐鳥氏)
他にも、農作物の収量管理や品質評価、植生分布のモニタリングなど農業や林業から、バイオ産業、医療まで、ハイパーの応用範囲は幅広い。
それだけではない。
産学連携による、初の道産人工衛星「HIT─SAT」打ち上げのプロジェクトリーダーを務め、2006年の打ち上げを成功に導いた。宇宙空間で衛星の姿勢制御技術実験、衛星通信によるデータの取得などを行い、民間でも人工衛星の開発ができることを世に示した。