《本記事のポイント》

  • 日本は「有志連合構想」ではなく自衛隊を独自派遣
  • 日本が有志連合構想に参加すべきでない理由
  • P3C哨戒機の派遣のみで、護衛艦は送らないという判断は妥当なのか

日本政府は、アメリカが参加を呼び掛けるホルムズ海峡での航行の安全確保に向けた「有志連合構想」に参加するのではなく、自衛隊を独自で派遣することを検討する方針だという。6日付産経新聞が報じた。

これまでアメリカの呼びかけに応えて参加を表明したのはイギリスのみ。

自衛隊を派遣する場合は、海上自衛隊のP3C哨戒機の派遣に留まる予定。艦船は直接軍事衝突に巻き込まれるなどの可能性があることから、送ることは想定されていない。

6月、ホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃を受けた。この事件は、安倍晋三首相がアメリカとイランの仲介をすべく、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師と会談した日に起きた。

その後もイランがイギリスのタンカーを拿捕する事件などが続いているため、アメリカは民間船舶を護衛するために同盟国の軍などと有志連合の結成を目指し、7月上旬に日本に打診していた。

日本船主協会によると、ホルムズ海峡を通過する船舶は、年間延べ1700隻に上り、そのうち約500隻がタンカー。日本の船舶は一日あたり15隻で世界最多と言われる。

原発再稼働が進まない日本は原油輸入の9割、備蓄の難しい液化天然ガス(LNG)の2割を中東に依存し、エネルギー自給率は8%。ホルムズ海峡からの輸送が滞れば、日本はあっという間に干上がってしまう死活的に重要な海峡である。

日本はなぜアメリカ主導の「有志連合構想」に参加すべきでないのか

1980年から88年に行われたイラン・イラク戦争時は、双方が石油タンカーを攻撃し、240隻近くが攻撃され55隻が沈没している。この時、米英海軍がタンカーをエスコートする護衛船団を結成した。

シンプルに考えれば、日米同盟にほころびが出かねないため、有志連合構想に参加するのが当然だと思われがちだ。

今回日本政府が、アメリカ主導の有志連合構想への参加を見送った理由は、大きく分けて2つある。

1つは、イランとの関係悪化の事態が予測されるためである。

イランから見れば、有志連合構想はアメリカの指揮下で行われる「イラン包囲網」でしかない。そこに日本が参加することで、これまで日本がイランとの間で築いてきた外交上の資産が損なわれる。その上、かえってホルムズ海峡の緊張を高めることにもなりかねない。

アメリカにとって、「イスラエル解体」を国是に掲げるイランの核合意破りは許容できない。だが2015年の核合意から、昨年一方的に離脱したのは、アメリカである。

イランは核合意を遵守する見返りとして、核合意で認められていた経済制裁の解除を求めていたが、その要求にアメリカが応じることはなく、かえって経済制裁を強化。アメリカが離脱してから14カ月も合意を遵守し、今年の7月に入って初めて核合意の規定を超えたウランの濃縮を開始した。

トランプ氏は、「(イランは)核合意を遵守せず秘密裡にウランを濃縮してきた!」とツイートしたが、国連原子力機関(IAEA)の査察を受けるイランは、秘密裡に濃縮してきた事実はないとされている。

こうしたアメリカのイランに対する一方的な態度は、大統領選を見据えた戦略の面もある。来年、トランプが再選されるか否かは、トランプ氏を選出したキリスト教福音派が票を投じるかどうかにかかっているからだ。

またアメリカでは、ユダヤロビーの力も大きく、歴代大統領はイスラエル擁護に傾斜せざるを得ない。トランプ氏も例外ではなく、むしろこれまでの大統領以上に、イスラエルへの一方的な肩入れが目立つ政策をとっている。

だが日本は、一方的にイスラエルを擁護しなければならない理由はない。石油危機の際に、「アラブ友好国宣言」を発して、イスラエルを切り捨てた歴史もある。

有志連合構想ではなく、独自に自衛隊を派遣することで、日本は指揮権を維持した。この理由は評価すべきだろう。

護衛艦は送らず

2つ目は法的問題である。日本が護衛艦を送るには、法的なハードルをクリアする必要があった。

現在、海上自衛隊は、海賊対処法に基づいて、各国海軍と協力してソマリア沖で民間船舶を守っている。海賊対処法は、海賊対策に限られ、公海上で行われたものでなければならないという縛りがあるため、ホルムズ海峡での船舶の護衛に援用できない。

さらに自衛隊法に基づく海上警備行動は、日本関連船舶が対象で、外国船舶は護衛できないし、武器使用は緊急避難の場合を除いて、警察権の範囲に限定される。

本来であれば、特別措置法の制定が必要だが、安保決議のない中、「何のための新規立法か」という点で国会の審議に耐えうる議論ができない。

護衛艦の派遣は、存立危機事態が生じた場合に、集団的自衛権を発動し武力行使に発展する可能性が高い。このため有志連合構想への参加を見送り、P3C哨戒機の派遣を検討することで軟着陸をさせようとする目論見かもしれない。

P3Cの哨戒機を送り警戒監視を行う能力は、日本、アメリカ、イギリスにしかなく、監視情報は共有されることになる。このため同盟国アメリカの顔を立てていないわけではない。

自国船舶の護衛を自国でするのは当然

だが日本の船舶の護衛は、本来、日本の責任である。上空からの警戒監視しかできないP3Cでは、日本関連船舶の直接の護衛はできないため、これらの護衛は他国に依存することになる。

護衛艦を送れば、「武力衝突に発展していく可能性が高い」という野党の追撃をかわすための措置であると同時に、日の丸のついた艦船がいることはイランを刺激することになるため、イランへの外交上の配慮からであろう。

だが、自国の船舶を自国で守り、必要とみたら外国船舶も助けるのは当然である。

バランスをとるなら、護衛艦の派遣に対しては、イランへの説明と共に、イランの原油禁輸措置から離脱することも検討し、適用除外の復活をアメリカに認めてもらうなどの措置をとることも必要だろう。イラン産原油を守るためということであれば、日本のタンカーは攻撃されにくくなるためである。

イランとアメリカ・イスラエルとの間の緊張緩和に向けて、日本は宗教的な面での仲裁も視野に入れつつ、継続してアメリカとイランに対して働きかけを続ける必要がある。

このような外交的な努力と同時に、憲法の改正、原発の再稼働やエネルギーの輸入先の多角化などでエネルギー安全保障を確保すべきだ。

(長華子)

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