【名画座リバティ(16)】人生の哀歓に満ちた天国──『ニュー・シネマ・パラダイス』
2025.12.14
Happinet『ニュー・シネマ・パラダイス』より。
映画を愛する皆様、お元気ですか。
私の職場近くの商店街に小さなイタリアンの店があります。先月久々に行くと、店内の大型モニターでこの映画が音声を消してかかっていました。また、私の自宅から徒歩圏内にあったシネコンが数年前に閉館となった際、最後の上映作品がこの『ニュー・シネマ・パラダイス』でした。村人に惜しまれながら閉館した映画館をめぐる物語を最後の上映作としたシネコン側の選択に、映画への愛を感じました。
二つのエピソードからも、1988年のこのイタリア映画が長く日本人に愛されていることが伺えます。現在全国の「午前十時の映画祭」にて上映中で、私は先日の日曜に劇場で観ました。三度目の鑑賞でしたが、観ながら二回も泣いてしまいました。これほど人生の哀歓を感じさせ、最後は幸せな気分にしてくれる映画は稀有だと思います。
(あらすじ)
ローマに住む映画監督サルヴァトーレの元に、30年間帰省していない故郷シチリア島の老母から「アルフレードが亡くなった」との報せが届く。アルフレードは、彼が子どもの時に仲良くなった中年の映写技師だった。サルヴァトーレは夜眠れぬまま、故郷の村の映画館と、アルフレードと共にあった少年・青年時代を回想する。翌日、葬儀に参列するため帰省すると、懐かしい映画館の取り壊しが決まっていた──。
ストーリーの大半はサルヴァトーレ(トト)の悲喜こもごもの回想シーンです。幼い頃の母親との思い出。父親が生死不明で戦争から帰らないトトが、父を慕うかのようにアルフレードと仲良くなり、村の映画館の映写室に入り浸る様子。思春期の恋の喜びと別れの悲しみ。アルフレードの身に起きた不幸と、老いた彼が青年トトに語る心の言葉。兵役と帰還、そして故郷からの旅立ち。
そうした誰の人生にも起きる普遍的な出来事や、不幸な出来事を描くにあたり、アメリカ映画のストレートな味わいをビールにたとえるなら、この映画はイタリアのワインのように一口一口が芳醇な香りを湛(たた)えています。名曲の誉れ高いモリコーネのノスタルジックな音楽が登場人物たちの人生賛歌を奏でます。
本作のさらなる魅力は、20世紀半ばの映画館が町や村の娯楽の一大殿堂であった様子が、懐かしく描かれていることです。互いに顔見知りの観客たちが、同じ映画を観ながら共に大声で笑い、泣き、恋愛シーンにうっとりする。人々は映画館で一緒に疑似的人生を生きていたのであり、それは当時の日本でも同じだったと思います。本作の題である「ニュー・シネマ・パラダイス」(イタリア語ではヌオーヴォ・チネマ・パラディーソ)とはトトの故郷の映画館の名前で、訳せば「新・映画天国座」でしょうか。現代のシネコンは個人主義的で機能的な娯楽消費施設ですが、あの時代の映画館は、観客が心ひとつとなって楽しむ一種の天国でした。
人々の心がひとつになることは、幸福の科学が目指すユートピア社会の一側面でもあります。大川隆法・幸福の科学総裁の著書『愛から祈りへ』には、こうあります。
「『彼我一体』『自と他は一体である』と言われても、普通の人にはその中身がなかなか分からないでしょうが、それは、自分だけの秘密、人に言えない言葉や考えといったものがなくなり、自分の心のなかを他の人と共有できるような生き方なのです。
互いに心が打ち解けて、他人の悩みは自分の悩みであり、自分の喜びは他人の喜びであるというような世界をつくっていくことが大事です。
自と他が一体であり、同胞である世界を、『ユートピア社会』と呼んでもよいでしょう」
大勢の人たちが一つの空間で同じ映画を観ながら、登場人物の悩みや喜びを自分のことのように感じ、それを媒介として観客同士が心ひとつになることは、自と他が一体であるユートピア社会の練習になっているのかもしれません。
年老いたアルフレードは、青年トトに付き添われて海辺を散歩しながら彼に言います。「人生は映画とは違う。人生はもっと困難なものだ」
そう、実人生は映画に比べれば、ずっと平凡であり、困難や苦しさが多く、忍耐を要するものです。それは裏を返せば、映画とは取りも直さず、人生の平凡な部分を捨象したエッセンスを2時間に凝縮したドラマであることを意味します。そこには喜びも悲しみもあり、幸福も不幸もありますが、それらを含めたすべてが人生であることは、ある程度の年齢の方であれば誰もが実感しているはずです。そうした哀歓を深く描き得た映画には、人生の甘さと渋さ、美と素晴らしさが、熟成したワインのように封じ込められています。
それを全身で味わいたいからこそ、私たちは映画館に足を運び、つかの間のユートピア感覚に浸り、満足して劇場を後にするのでしょう。そんな小さなこの世の天国を体験できる映画『ニュー・シネマ・パラダイス』をお勧めします。
(田中 司)
『ニュー・シネマ・パラダイス』
- 【公開日】
- 2025年12月5日~2026年1月1日(劇場により異なります)
- 【スタッフ】
- 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 音楽:エンニオ・モリコーネ
- 【キャスト】
- 出演:フィリップ・ノワレ ジャック・ペランほか
- 【その他】
- 1988年製作 | 155分 | イタリア・フランス
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