「大きな美しい法案」の成立とイーロン・マスク氏の新党の行方【─The Liberty─ワシントン・レポート】
2025.07.07
4兆5000ドル(約650兆円)の大減税(10年間)と国境警備の強化が主軸のトランプ減税法案「一つの大きな美しい法案(One Big Beautiful Bill Act)」が、ついに成立した。
これまでトランプ大統領は、大型減税法案について、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」やインタビューなどで頻繁に発言し、減税法案の本質は「(経済)成長(GROWTH)」にあると何度も強調していた。
法案では、本年末に期限を迎える予定だった「トランプ減税」(2017年にトランプ政権下で導入された個人所得減税)が恒久化され、飲食店の従業員などが受け取るチップ、残業代、高齢者向け社会保障への課税が廃止される。
さらに、扶養する子ども向け税額控除の引き上げ、未上場企業向け控除の導入、連邦相続税の非課税枠の2倍引き上げ、州・地方税(SALT)控除上限の4倍引き上げなどが含まれ、一般国民やブルーカラー、中小企業を支援する法案が盛り込まれる。
同時に、国民の安全を確保するため、国防費や国境警備(不法移民対策)の費用が増額される。バイデン前政権下で700万人以上(1千万人を超える説もあり)が流入して治安の悪化などを招いた不法移民への対策は、党派を超えて切迫したニーズがあり、トランプ政権の政策の中でも支持率が高い。
一方で、これらの財源確保のため、22年にバイデン前政権下で導入された電気自動車(EV)や気候変動対策プロジェクト向け税額控除は撤廃され、太陽光発電などのクリーンエネルギーへの政府補助も縮小、さらに、低所得層向け公的医療保険「メディケイド」や食料品購入支援プログラム(旧フードスタンプ)の就労要件を厳しくする規定などが盛り込まれる。
共和党の一部(財政規律派)からは、財政赤字の拡大への反対意見が表明され、民主党からは、メディケイドの条件の厳格化などに対して批判が集中した。
7月1日、法案は上院議会でギリギリで可決された(賛否が50-50で同数となり、ヴァンス副大統領が賛成票を投じて可決)。下院議会では5月下旬に可決されていたが、修正が入ったために、再び下院で7月2日から3日にかけて、徹夜で審議が行われた。
採決の前に、ハキーム・ジェフリーズ民主党院内総務(下院の民主党代表)が、下院でのディベート最長記録(午前3時半頃から昼前までの8時間以上)を更新して「フィリバスター」(妨害)を行うことで、採決を遅らせた。しかし何の影響もなく、予定されていた通り、共和党議員2人が造反したのみで、3日の午後に無事に可決された。
トランプ氏は当初から7月4日の建国記念日までの成立を目指していたが、7月4日、ホワイトハウスでのトランプ氏の署名をもって、それが実現した形だ。
今年4月には、民主党のコリー・ブッカー上院議員が上院議会で、25時間以上という史上最長記録のスピーチを行い、トランプ氏批判をしたが、全く効果がなく、逆に民主党の支持率が下がったと言われていた。今の民主党は、このような生産性のないアンチ活動で、記録を打ち立てることで目立つことしかできない状態で、多くの民主党系識者も批判や懸念を表明している。
一方で、実業家のイーロン・マスク氏は6月29日に突如、減税法案を「狂気的で破壊的」と称して、再び、猛反対する意見をXに投稿(6月初めにも痛烈批判)。マスク氏は、政府効率化省(DOGE)を率いて、今まで隠蔽されてきた政府内の無駄や不正を次々に明らかにして削減し、絶大な貢献をして、トランプ氏と協力関係になったものの、減税法案をめぐってトランプ氏と意見が対立していた。今回のマスク氏の反対は、メディアでは話題になったが、トランプ氏自身や議会の間では、直接的には、それほど問題視されていなかった。
その後も、マスク氏による減税法案への批判は止まらず、反対票を投じた議員とも呼応し合い、「もし減税法案が成立したら、共和党とも民主党とも違う、第3の政党を立ち上げる可能性がある」と述べ、7月4日には、X上で、新党「アメリカ党」(The America Party)の立ち上げの是非を問うアンケートを実施し、翌日5日に、賛成が反対の2倍あったとして、新党の立ち上げを発表した。
選挙アナリストの間では、マスク氏の新党が第3党としてキャスティング・ボートを握った場合、来年の中間選挙で共和党に不利になるという説や、逆に、民主党から逃げ出している党員の受け皿になるため、共和党には有利になるという説もあるが、アメリカには既にリバタリアン党や緑の党などもあり、マスク氏が目指しているような議席(下院で8から10議席、上院で2から3議席)を獲得できるかどうかは見えない。
マスク氏は主に、法案による(1)政府の借金の増大(歳出削減が不十分)と、(2)再生可能エネルギー導入支援の大幅縮小(太陽光・風力発電、水素エネルギーに対する税額控除の縮小)に対して、強く反発している。
同氏は、「太陽光発電などの再生エネルギーが未来のエネルギーである」という前提に立ち、「今のままアメリカでの支援を縮小すれば、中国などに世界の市場を支配されてしまう」と主張している。しかし、この前提が間違っている可能性については考えていない。
ただ、今回はトランプ氏への直接の個人批判はしておらず、逆にトランプ氏の外交政策については、賛同を示している。減税法案に反対し続けているマスク氏に対しては、保守系識者などから、技術者出身の独特の"視野の狭さ"と、リバタリアン(自由至上主義者)系に多い、中国共産党問題への関心の薄さが表面化しているという指摘もある(対中政策を主な目的とした関税政策などを理解していない)。
「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
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