「影の銀行」の雄・中植の経営破たんが、中国金融市場を揺るがす【澁谷司──中国包囲網の現在地】

2023.12.07

アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

北京市公安局朝陽支局(*1)は11月25日、中植グループ(以下、中植G)傘下のウェスル・マネジメント管理会社の犯罪容疑について捜査するよう通達を出し、創業者である故・解直コン(金へんに昆)の親族・解某氏を含む、数人の容疑者を拘束した。容疑の詳細は明らかにされていないが、同グループが深刻な経営難にあり、負債総額が少なくとも2200億人民元(約4兆4000億円)に達することが背景にあると見られる。

(*1) 2023年11月25日付『万維読者網』

不動産市場低迷で大幅な債務超過に陥る

中植Gは1995年に北京で設立され、徐々に色々な分野に事業を拡大した(*2)。半導体から健康関連、消費財に至るまで、さまざまな業種の上場企業の株を保有している。その全盛期には1兆元(約20兆円)以上の資産を管理していたという。

同グループは、中融国際信託投資会社を含む6つの認可金融機関、5つのアセット・マネジメント管理会社、4つのウェルス・マネジメント管理会社を保有している(一般に、アセット・マネジメントとウェルス・マネジメントの違いは、前者は主に「資産」に、ウェルス・マネジメントは「人」に焦点を当てる)。

中植Gは中国最大の民営資産管理会社の一つであり、同国で約3兆ドル(約450兆円)規模を誇る「影の銀行(シャドーバンク)」業の主要プレイヤーだった(*3)。シャドーバンクとは、従来の商業銀行とノンバンクとの間を取り持つ仲介業者のことを指す。

しかしその財務状況は近年、危機的状況にあった。同グループの総資産が2000億元(約4兆円)と推定されるのに対し、負債総額は約4200億元(約8兆4000億円)から4600億元(約9兆2000億円)で、大幅な債務超過である。

中植G傘下、中融信託の不動産投資の割合は、2017年から2020年までそれぞれ6.61%、10.99%、17.65%、18%と増え続けていた(*4)。しかしここ数年間、不動産市場が低迷し、中植Gは収益だけでなく、資金の流動性においても困難な状況にあった。

11月22日、中植Gは約2年前の2021年12月18日に同グループの実質的なトップである解直コンが急逝していたことを発表した。リーダーシップが事実上不在の中、多くの幹部と中核人員が休職または離職し、グループの意思決定が前の実質経理責任者に大きく依存していたのだ。その結果、内部の財務管理に失敗している。

(*2) 2023年11月29日付『VOA』
(*3) 2023年11月27日付『DW』
(*4) 2023年11月23日付『rfi』

"金融帝国"を築いた伝説的創業者

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