なぜ中国に独裁色の強い政権が誕生したのか?【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2022.11.21
《本記事のポイント》
- 自分たちが生んだ独裁者の続投を阻止しようとした元老たち
- 元老らの「宮廷クーデター」、失敗の背景は中央軍事委員会の及び腰か?
- 「民意」よりも「内部の理論」を優先する中国共産党の体質
周知の如く、今年10月、中国では第20回党大会が開催された。その結果、習近平主席が"派閥均衡型"ではなく、ほぼ自らの派閥(「之江新軍」中心)で固めるという思い通りの人事が行われている。
とりわけ、「共青団」の李克強・首相、汪洋・政治協商会議主席、胡春華・副首相の3名は、7名の政治局常務委員はおろか、25名の政治局委員(今回はなぜか24名)にも入らなかった。李首相は中央委員にも残っていないので、来春、完全に引退する。
自分たちが生んだ独裁者の続投を阻止しようとした元老たち
さて、習政権は、さらに独裁色が強くなった。実は、この政権を最初に誕生させたのは、江沢民元主席ら元老たち(「老人帮」)だった。元来、胡錦濤前主席は、後継者には李克強と決めていた。ところが、江沢民や曽慶紅らが、突然、大した実績もない習近平を担ぎ出した。これが、今の中国の状況を作り出した一番の原因である。
トウ小平は江沢民(「上海閥」)の次のトップとして、「共青団」の胡錦濤を指名した。そこで、江沢民はトウ小平に倣い、胡錦濤の後継者に李克強ではなく、習近平を指名したのである(「隔代(次々期のトップ)指名」方式)。これが、ある意味、"間違い"のもとだった。
習近平が、トウ小平の盟友、習仲勲の息子という「太子党」で親しみが持て、かつ、凡庸に見えたのだろう。江沢民らは、習近平を「元老政治」(いわゆる「垂簾聴政」)を行うにはうってつけの人材だと信じた。
けれども、習近平は父親の習仲勲とは真逆の「保守派」(中国語の「極左」=日本語の「極右」)だった。その後、有能な王岐山・現副主席を中央規律検査委員会書記にすえ、「反腐敗運動」を展開し、恣意的に政敵を次々と失脚させた。そのため、党内で、習近平に歯向かう人間は激減している。
元老達は、第20回党大会で、このまま習近平が党内ルールを破って3期目の続投をすれば、共産党政権の存続が危ぶまれるとの危機感を抱いた。
なぜなら、習近平は「改革・開放」を嫌い、経済よりも政治優先の"毛沢東型"の政治(具体的には、集団指導制ではなく"独裁制"を採用し、「第2文革」を発動)を行おうとしたからである。経済が悪化しようとお構いなしだった。
元老らの「宮廷クーデター」、失敗の背景は中央軍事委員会の及び腰か?
そこで、元老達(元政治局常務委員)はこぞって党大会に出席し、何としても習近平の続投を阻止しようとした。しかし、今度の党大会では、元老達の影響力が及ばず「宮廷内クーデター」は失敗に終わったのである。
まず、「江沢民派」と目されていた王滬寧や趙楽際らが、「習近平派」に寝返った。そのため、党大会の主席常務委員会で「反習近平派」が多数を占めていたにもかかわらず、「習近平派」に切り崩された。
一方、元老達の"切り札"である軍が「中立」を維持し、「反習近平派」の思惑通りにならなかった。
そこで、習近平のシークレット・サービスが元老達の党大会出席を阻止した。これで「習近平派」と「反習近平派」との間の勝負はついたのである。
実際、一時的に、中央軍事委員会は、習近平の統制下からはずれている。党大会直前、9月8日深夜、瀋陽軍区で内戦が起きた。「北部戦区」司令官だった李橋銘(「改革・開放」支持)が、軍権移譲を拒否したからである。当日、習主席は李橋銘を更迭し、王強を「北部戦区」指令官に任命した。
その後、失脚したはずの李橋銘がなぜか10月初め「陸軍司令官」に昇進していた事がわかった。
他方、「東部戦区」林向陽・元司令官は、いったん「中央戦区」司令官に異動となった。それから4ヶ月後、クビになり、「東部戦区」へ戻って来た。だが、林に司令官ポストは用意されていなかったのである。ところが、10月初めには、林向陽は再び「東部戦区」司令官に返り咲いた。
おそらく、李橋銘と林向陽の人事は、江沢民が仕切る中央軍事委員会によって行われたものだったのではないだろうか。まさか、習近平が両将軍を昇進させたり、返り咲きさせたりするはずはない。
しかし、中央軍事委員会は大事な時に、保身からか「反習近平派」の元老達の味方をしなかったのである。
「民意」よりも「内部の理論」を優先する中国共産党の体質
10月13日、党大会直前、彭載舟(本名、彭立発)は北京市海淀地区の高架橋で、横断幕を掲げた。いわゆる「北京四通橋横断幕事件」である。
横断幕には「PCR検査は要らない。『文革』は不要、『改革』が必要」等を主張し、最後に「独裁者の国賊、習近平を罷免せよ」と書かれていた。すぐに、彭載舟は公安に連行されたが、この内容こそ、中国人民の"民意"だったのではないだろうか。
結局、「習近平派」及び軍はこの"民意"を無視して、習近平の3期目続投を支持している。
やはり中国人にとって決定的に重要なのは「帮(パン)」(その中では特殊なルールが存在。マフィア・ヤクザ組織と酷似)である。その「帮」内部の"自己人"(身内)は極めて大切にする。だが、それ以外の人は自分とは関係ないので、"人間扱いしない"という事がわかる党大会だったのではないだろうか。
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ザ・リバティ』2022年12月号
幸福の科学出版
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「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
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