「それでもオバマは再選できない」国際政治学者ウォルトが見通し

2011.05.05

アメリカの国際政治学者、スティーブン・ウォルト・ハーバード大ケネディ行政大学院教授が米外交誌「フォーリン・ポリシー」で、「ビンラディンの死は何を意味するか」と題して、ビンラディン殺害について国際政治学のリアリズムの立場から見通しを語っている。以下はポイント。

  • ビンラディンはアルカイダをもはや動かしておらず、シンボル的価値しかなかった。今回の死でその価値がなくなる。殉教者と考える人はわずかで、多くのアルカイダのメンバーはビンラディンのかたきを取ろうとは考えないだろう。

  • ただ、ビンラディンは完全に失敗したわけではない。彼の主要な目標は、アメリカをイスラム世界との高くついて長引く戦争に引きずり込むことであり、それに成功した。9.11がなければ、アメリカはイラクやアフガンで何兆ドルも浪費し、何千人もの犠牲者を出すことはなかった。アメリカ一極時代の終わりを加速させることもなかった。

  • アメリカの外交政策は反米主義を招いており、アメリカが自国の利益を守るのが難しくなっている。アルカイダは、アメリカがアフガンで困難に遭う理由ではない。イランとの対立とも何の関係もない。アルカイダが消滅しても、アメリカ外交は中東などで数多くの挑戦に直面する。

  • ビンラディン殺害の効果はすぐ消える。長い目で見て重要なのは、一人の悪いやつを捕まえることより、長期的にアメリカ経済がよくなることと、他の大国が歓迎し尊重するような外交・安全保障政策を遂行することである。

  • オバマ大統領に望むのは、勝利を宣言しつつ、静かに撤退することだ。オバマがこの勝利を利用して、(アフガンからの)撤退を正当化できれば、彼はこの控えめな勝利から最大の利益を得ることができる。

  • オバマとそのチームはこの勝利に満足しているだろうが、その栄誉にあぐらをかくことはできない。ブッシュ大統領(父)は湾岸戦争に勝ったが、18カ月後の選挙で辞職した。92年の大統領選で勝利したクリントン大統領が「問題は経済だよ、バカ」と言ったように、2012年の大統領選では今回の勝利の記憶は忘れられ、雇用など他の問題が大きくなるだろう。

ウォルト氏は、「アメリカの外交・安全保障にとってビンラディンの死は意味を持たない」「オバマはアフガン撤退を早めることが望ましい」「しかし2012年の大統領選にオバマ氏は勝てないであろう」と指摘している。アメリカの国際政治学者の中でも、非常に冷ややかで現実的な見方の一つだ。(織)

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