毛沢東は鉄の「大躍進」で転び、習近平は半導体の「大躍進」で転ぶ!? 【澁谷司──中国包囲網の現在地】

2020.10.14

《本記事のポイント》

  • 世界からチップ禁輸で"干される"ファーウェイ
  • 習近平政権はチップ生産の「大躍進」を開始
  • 中国のチップ生産は20年遅れ!?

現代社会では、集積回路(半導体チップ。以下、チップ)が重要な役割を担う。とりわけ5Gの時代を迎え、需要はさらに増している。

よく知られているように、チップは小さければ小さいほど良い。現在では、nm(ナノメートル=10億分の1メートル=0.000001ミリメートル)という単位が使用されている。各国はチップをいかに小さくするか凌ぎを削っている。

実は、世界最小レベルのチップを製造するのは台湾新竹市にある台湾積体電路製造(以下、TSMC)である。TSMC は現時点で3nmチップまで生産でき、以前の5nmより性能が10~15%、エネルギー効率が20~25%も向上しているという。2024年頃までには2nmを製造するのではないかと言われている。

中国のファーウェイ(華為技術)も5Gに対応するため、TSMCなどの高性能チップは必要不可欠である。

世界からチップ禁輸で"干される"ファーウェイ

そのチップが、ファーウェイに入らなくなっている。米政府による規制のためだ。

ファーウェイは表向き民間企業を装っているが、人民解放軍と深い関係を持つ。創始者の任正非は解放軍出身で、現在、娘の孟晩舟(CFO)はカナダで拘束されている(カナダの法廷では、目下、孟を米国への身柄引渡すかどうかの裁判が進行中)。さらに同社製品にはスパイウェアが埋め込まれ、中国共産党が米国を中心とした世界中の情報を集めていると言われている。

そのためトランプ米大統領は同社を敵視し、製品を米国市場から締め出した。同社製品の約9割は携帯電話である。

さらに9月15日、トランプ政権は米企業や他国企業に対し、チップをファーウェイに売却することを禁じた。そして台湾のTSMCや聯発科(メディアテック)なども、その規制に従っている。

トランプ政権は10月4日にも、ケイマン諸島の中国政府系半導体受託生産最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)に、ファーウェイへの禁輸を命じた。

中国は半導体輸入において、世界から"干され"つつある。

習近平政権はチップ生産の「大躍進」を開始

そこで習近平政権は、「自力更生」によるチップ生産の「大躍進」を開始した。

中国は1958年から「大躍進」運動を始め、大惨事を招いた歴史がある。イギリス等に追いつき、追い越せというのがスローガンだった。当時は「鉄は国家なり」(鉄の生産量が国力を示す)と考えられていた時代である。そこで毛沢東は各地に"土法高炉"をつくり、粗鋼の大量生産を目指した。鍋や釜などが炉に放り込まれた。

だが、所詮、素人にはまともな粗鋼が生産できなかった。この時期、全国では、粗鋼生産にばかり力が注がれ、秋の穀物類の収穫は疎かにされた。そのため、以後3年間、大飢饉が起きている。

今般、北京はチップづくりの「大躍進」を展開しているが、果たして思惑通りに行くのか。大きな疑問符が付く。

中国のチップ生産は20年遅れ!?

アリババの創始者、馬雲(ジャック・マー)が喝破したように、中国でのチップ生産は、20年遅れているという。

中国経済評論家の游資周教授は「『内循環』政策後、中国のチップ生産は何年遅れるか?」(2020年9月8日付『RFA』)という記事で、次のように指摘している。

  • iPhone4s用チップは45nm(2011年時の国際水準)を使用している。中国で始まった「内循環」(=「自力更生」)経済下では、そのiPhone4sの携帯電話を生産するのがやっとである。

  • 今日、中国国内では(2014年時の国際水準である)28nmチップが最高レベルである。そしてそれを自力で完全生産するには、3~5年かかる。だが今では、すでに14nmが世界標準となっている。中国がこれを生産するには6~10年かかると見込まれている。

技術的にこれだけ遅れているにもかかわらず、中国共産党はチップ生産の「大躍進」に乗り出した。チップ使用の携帯等の売り上げにおいて、武漢市で1280億元(約1兆9200億円)、成都市で615億元(約9225億円)、全国で1兆4200億元(約21兆3000億円)を目指す大プロジェクトである。

前述のように、中国は「大躍進」運動の際、使用できない粗鋼を大量に産み出した。ひょっとすると、今度は時代遅れで使い物にならないチップを大量生産するのではないだろうか。

中国の総合的な技術水準は、必ずしも高くない。2016年、李克強首相が中国ではボールペンのボールさえ作れないと嘆いていた。とりわけ、民生レベルではこの有様である。

けれども我が国の中では、中国の技術を過大評価する人たちが少なくない。おそらく、中国の一部先端技術(サイバー技術や宇宙関連技術等)だけ見て、中国全体が先進的だと錯覚してしまうのではないか。

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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2019年10月6日付本欄 どんどん深まる中国とEUとの溝【澁谷司──中国包囲網の現在地】

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タグ: 中国包囲網の現在地  ファーウェイ  澁谷司  人民解放軍  中国共産党  禁輸  李克強  習近平  チップ  飢饉  iPhone 

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