A紙が広げる「成長は悪」の思想

2011.04.08

2001年の「9・11」同時テロでアメリカ人の世論や世界観が変わったと言われているように、「3・11」東日本大震災で日本人の世界観が変わったという見方がある。どう変わったかと言えば、原発に代表される科学技術や、科学技術に基づく文明の発展について否定的に見る考え方だ。

それを端的に語っているのが、7日付朝日新聞の川北稔・大阪大名誉教授のインタビュー「3・11に砕かれた近代の成長信仰」だ。ポイントは、

・ 近代は経済成長を前提にした時代だったが、これは「成長パラノイア」である。経済成長を裏打ちしたのが地理的な拡大と科学技術の発展だった。

・ 今回、それが揺らいだ。科学技術が最も進んだ日本でさえ巨大な津波に負けてしまった。科学技術が生んだ原発が災厄を生み出し続けている。

・ 原発を新たに造ることは当分無理。「経済は常に成長すべきだ」という考え方を後退させないといけない。

・ かつて(覇権国から没落した)ポルトガルや、スペイン、オランダのように、日本は世界やアジアのトップではなくなるのかもしれない。しかしそれは不幸ではない。現在のポルトガルは安定し、人々は幸せな人生を送っている。

いま日本は、「贅沢は敵だ」「欲しがりません、勝つまでは」という窮乏生活に耐える戦時中のような価値観が覆っている。それが各地での自粛ムードや消費の大幅な減少となって表れている。川北氏のような「成長は悪、発展は悪」という考え方を受け入れるときに、日本はポルトガルのように没落していく。ポルトガルは平均所得は日本の3分の2。財政危機は自力再建が難しく、EUの緊急支援を受けようとしてようとしており、国家破たん寸前だ。日本は国債のほとんどを国内で消化しており、豊かさのレベルがまったく異なる。決して「成長は悪」という考え方を受け入れてはいけない。(織)

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