「食品ロス削減」国民運動へ 「飽食」日本のこれから
2019.06.10
《本記事のポイント》
- 過度な食品ロスには自制も必要だが……
- 税金を投入して対策する以外に方法はないのか
- 食糧を「国富」と考え、食糧増産や海外への輸出を検討してみる
参議院でこのほど、食品ロス削減推進法が可決、成立した。公明党が主導し、超党派の議員立法によって国会に提出された。今秋にも施行される。
「食品ロス」とは、まだ食べることができるのに、廃棄される食品のこと。2016年度に国内で廃棄された食品は約2759万トン。そのうち、食品ロスは約643万トンあった。
政府には、削減に向けた基本方針の策定が義務付けられる。環境省は早速、家庭から出る食品ロスを2030年度までに、2000年度の433万トンから半減させる目標を掲げている。
また、市場での流通が難しい規格外品を、企業が福祉施設や貧困家庭に無償で提供する「フードバンク」活動への支援も求めている。さらに国民運動としても取り組み、事業者や消費者の意識改革も促す。事業者は、2030年までに食品ロスを2割減らし、業種ごとの目標値を定める予定だ。
食品ロスが改めて注目されるようになったきっかけは、東日本大震災だった。被災地で十分な食料が手配できない中、他の地域では大量の食料が廃棄されていたことが問題視された(ただ、他の地域から被災地に商品を送り、店頭に並べているコンビニもあった)。最近では、コンビニの季節商品の大量廃棄が話題になることも多い。
国連で2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」でも、食品ロスの問題が言及されており、国際的にも関心は高い。世界食糧基金によると、世界全体に必要な食糧援助量は300万トン。これは、日本で出る食品ロスの半分程度だという。確かに、日本は「飽食」の国となった。過度な食品ロスには自制も必要だろう。
しかし、「もったいない」精神が強くなったり、弱者救済のマインドが強くなりすぎたりすると、企業家的発想が否定され、注意も要るだろう。
税金を投入する以外に方法はないのか
法が成立したことで、食品ロスの削減は政府・自治体が主導することになる。消費者相をトップとする食品ロス削減推進会議を内閣府に置き、農水相や環境相を巻き込んだ組織をつくることになっている。
しかしこれは、「大きな政府」の典型例と言えるだろう。本来なら、民間で主導すべき取り組みではないか。
例えば、コンビニで食品ロスが生じた場合、宗教的あるいは倫理的なミッションに燃え、民間が自主的に無償提供を行えば、対策に税金を投じる必要はない。民間が運営しているフードバンクもある。規格外商品を安く提供し、消費者のニーズを生み出す企業も今後増えるだろう。
食糧も国富を創出する
今の日本経済の最大の問題は、消費活動が落ち込んでいることだ。そうした中で食品ロス削減を進めれば、経済状況を悪化させる可能性が高い。企業や生産者の活動が抑制されれば、内需が縮み、GDPが縮小するからだ。
質素倹約が推奨されるのは、戦争などの緊急時であり、今の日本には当てはまらないだろう。極端な食品ロスの削減の行き着く先は、「貧しい社会」の実現かもしれない。
世界の人口が爆発的に増える中で、企業や生産者が活動を抑制することは好ましくないだろう。むしろ日本は、食糧も「国富の一つ」と考えるべきだ。
世界の食糧問題を解決するために、国内で食糧増産の体制を整え、海外へ輸出することも検討してもよいのではないか。日本産の食品は高品質であるため、海外でも高い評価を受けている。また、規格外商品でも「ワケあり」として安く提供できるものもあるだろう。
飽食を自制することはよいが、見通しを誤り、足元をすくわれることだけは、避けなければならない。
(飯田知世)
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