レーダー照射動画を元自衛隊パイロットが検証(2) これのどこが威嚇飛行か!

2019.02.15

レーダー照射されたとされる海上自衛隊のP1哨戒機(出典: 海上自衛隊ホームページ )

《本記事のポイント》

  • 「照射」の証拠、あるけど出せない日本
  • 「低空威嚇」を動画で検証すると……
  • 「通信無視」への韓国の言い訳

【ザ・ファクト共同取材番組】

ザ・ファクトREPORTレーダー照射事件――韓国と北朝鮮が急接近!?韓国海軍は北朝鮮船と何をしていたのか

「レーダー照射問題」は、よく言って沈静化、悪く言ってうやむやになりつつある。

しかしこの問題は「朝鮮半島で何が起きているのか?」「日韓関係に何が起きようとしているのか?」を知る上で鍵となる。

いったい何が真実なのか? この問題をどう見るべきなのか? 複雑に絡み合う問題の本質を、元航空自衛隊パイロットの河田成治氏が解説する。

本欄は前回( https://the-liberty.com/article/15401/ )に引き続き二回目。

◆               ◆               ◆

河田 成治

プロフィール

(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

そもそもボロが出ている韓国側の主張ですが、現時点で、日韓の意見の隔たりには大きく三つあります。

一つ目は、「韓国が火器管制レーダーを本当に照射したのか」。

二つ目は、「日本が低空威嚇飛行をしたのか」。

三つ目は、「日本が通信を試みたが、韓国側が無視したのではないか」というものです。

それぞれについてどう見るべきかを、実際に映像なども見ながら検証していきましょう。

「照射」の証拠、あるけど出せない日本

まず一つ目の、「韓国が火器管制レーダーを本当に照射したのか」という問題です。

これについて自衛隊は、動かぬ証拠を持っていると思われます。本当のレーダーのデータを公表すれば、もう韓国は言い逃れできないでしょう。

しかし日本はそれを安易に公表できません。これを国際的に発表すれば、「P-1という哨戒機が、どれだけの電波を受信できる能力を持っているか」が知られてしまいます。これは、「日本の全ての軍用機がどれだけの能力を持っているか」を知らせるようなもの。他国が、これに対応するようなレーダーを開発することにつながってしまいます。

そのため自衛隊は、「状況証拠」としての動画や、火器管制レーダーの受信データを「音」に変換したものを公表しました。

日本側としては、「完全な証拠を持っているが、出せない」という状況です。

「低空威嚇」を動画で検証すると……

二つ目の「日本が低空威嚇飛行をしたのか」という問題はどうでしょうか。

そもそも論なのですが、「軍用機にとって低空飛行とは何か」というのは、国際法上も定義されていません。「相手国の船からどれだけ離れなければいけない」という高度制限も軍用機にはありません。

そもそも規定がないところを、日本は「民間機用の国際法」および「日本の国内法」に基づいて飛行していたと主張しています。これは、「相手の船から高度150メートル、距離500メートルより近づかない」というもの。「より厳しい基準」をとって、飛行したということです。

私が映像を見る限り、日本側はこの厳しい基準「高度150メートル、距離500メートル」より近づいたことはないようです。

実は、日本が公開した映像から、相手の船との距離をだいたい測ることができるんです。

外務省公開動画より。

例えば救難艦であるサンボンギョの長さは145.5メートルです。パイロットから見えている風景から、「相手船が水平線から船体何個分離れているか」を見れば、それがだいたい自分の高さになります。

映像の上記部分を見ると、サンボンギョから水平線は、船体一つ分以上離れています。そのため、少なくともこちらは、高度150メートルどころか、200~300メートルくらいであると概算できます。

さらに、「船体の長さを何個分伸ばすと、自分の真下に来るか」でも、距離が分かります。この場合、どう考えても船体の10倍以上はあるので、2~3キロは距離をとっているのではないでしょうか。

このように見ていくと、P-1哨戒機が、韓国船に「高度150メートル、距離500メートル」よりも近づいているシーンは一回も見当たらないのです。

では韓国がその事実に対して何と言っているか。

なんと韓国側も映像で、「高度150メートル、距離500メートルというのは、民間機用であって、軍用機用ではない」と主張しています。つまり、本来、「日本機が『民間機レベル"より厳しい"基準』で距離をとった」というはずの根拠を、「民間機の基準だから関係ない」という話にすり替えてしまっているのです。

韓国「反論動画」より。

では韓国側は何をもって「低空威嚇飛行」の基準にしているのか。

韓国側は実務者協議で、「我々が脅威と感じたら、脅威なのだ」という客観性に欠ける主張をしています。

しかし、韓国側の映像でも、はるか遠くを通り過ぎているだけ。

韓国「反論動画」より。

これがどう威嚇的なのか、この映像からはまったく説明がつきません。また後半にはテロップで、「騒音と振動を強く感じるくらい威嚇的でした」という極めて主観的な主張を付け加えています。

韓国「反論動画」より。

そもそも、政府見解として客観的な証拠を示すのに、映像に音楽を流している時点で、これがプロパガンダ的な映像であることがわかりますが……。

「通信無視」への韓国の言い訳

では三つ目に論点となっている、「日本が通信を試みたが、韓国側が無視したのではないか」という問題についてです。

まず、なぜ「通信」が問題になっているのかをご説明します。

通常、このようなレーダーが照射された場合、「なぜそのようなことをしたのか」を相手に問い合わせるのが、国際的なルールになっています。

これ以上のエスカレーションにならないように、お互いの意図を確かめ合わなければいけないからです。

実際にP-1哨戒機は、レーダー照射を受けた際に、「国際緊急周波数」というもので問いかけました。これに対して、韓国側から何ら応答がありませんでした。日本側は、合わせて3種類のチャンネルを使って呼びかけました。それでも応答はなかった。異常です。

韓国「反論動画」より。

これについて韓国側は動画などでも、「雑音が多くて聞き取れなかった」と弁明しています。

しかし、この時にP-1哨戒機が発した無線は、はるか240キロ離れたところにいた自衛隊の訓練機が明確に聞き取っています。これだけ天気がいい中、至近距離の韓国船が聞き取れなかったのでしょうか。

ちなみに私も航空機に乗っていた時、当然ながら航空無線は使用しました。たまに雑音が入ったり、音が切れたりするということもありました。ただ、この「国際緊急周波数」のUHF無線というのは、「ガードチャンネル」とも呼ばれるのですが、どんな時にも、最も明瞭に聞こえていたことを覚えています。これが聞こえないのは、常識的にあり得ないと思います。

もし本当に聞こえなかったとすれば、韓国の軍艦の無線の性能がいかに低いかを、逆に証明していることになります。

それに、仮によく聞き取れなかったとしても、「何と言ったのか、もう一度言ってくれ」と聞き直しますよね。

もし日本が低空威嚇飛行をしたのならば、韓国から「なぜそのようなことをしたのか」を問い合わせるべきでした。それさえもしなかった。

そもそも、本当に韓国船は日本の無線を聞き取れなかったのでしょうか。韓国側が公開した映像には「雑音で聞き取れなかった証拠」として、「クワンゲト」が受信した音声を公開しています。ここでは、はっきりと「ジャパン・ネイビー」と言っているのを、素人でも聞き取れると思います。

(取材:ザ・リバティWeb企画部×ザ・ファクト取材班)

【関連記事】

2019年2月13日付本欄 レーダー照射動画を元自衛隊パイロットが解説(1) まず明白な4つの嘘

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2019年2月15日付本欄 レーダー照射動画を元自衛隊パイロットが検証(最終回) そもそもなぜ照射した?

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タグ: 火器管制レーダー  P-1哨戒機  反論動画  レーダー  航空無線  韓国 

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