もう一度整理しておきたい、「軍事力」の3つの意味

2017.09.22

《本記事のポイント》

  • 軍事力には、相手国の悪事を止めさせたり、思いとどまらせる機能がある。
  • 日本は現在、「滅ぼされるまで何もしない」と宣言してしまっている。
  • 他国も、日本がもっと力を持ち、中国や北朝鮮の横暴を止めることを期待。

「軍事力」と聞けば、「とにかく危ないもの」「避けるべきもの」と考える。それが戦後の日本に醸成された「空気」でした。学校教育の中でも、国家が軍事力を持つことの意味を学ぶことはほとんどありません。

日本は今、核開発を進める北朝鮮や核大国の中国の脅威にさらされ、「独立を保てるか」、それとも「他国の軍事力に脅されるか」のはざまにあります。日本は憲法9条を維持するために、主権国家であれば持っていて当然の「軍事力」を一部しか持っていないためです。

ここで改めて、「軍事力」の3つの側面に目を向けてみましょう。

(1)他の国に何かをさせるための軍事力(強制外交)

1つは、自分の国の武力を行使したり、あるいは威嚇することによって、他国に何かをさせることです。

例えば1962年、ソビエト連邦がキューバにミサイル基地を建設中であることが分かりました。対岸のアメリカは、ソ連の核ミサイルが向けられる可能性が出てきたことに危機感を抱きます。ケネディ米大統領は核戦争も辞さない構えで交渉を行い、キューバのミサイル基地を撤去させました。

アメリカは、キューバ海域を軍事的に海上封鎖。戦闘機に核兵器を搭載するなど、全面戦争の準備を行ったことで、ソ連は戦意を喪失。キューバに配備されていた核ミサイルを撤去させることができたのです。

しかし、この時にアメリカが核兵器を持っていなければ、ソ連がアメリカの要求を呑むことはなかったでしょう。アメリカとしては、「核戦争をする」ことを目的としていたわけではなかったのです。

(2)他の国に何かをさせないための軍事力(抑止力)

2つ目は、他国が、自国にとって好ましくない行動をとろうとしている時に、それを思いとどまらせるための軍事力です。

ある国を攻撃したら、その国や同盟国から、壊滅的な反撃を受ける。それが分かっていれば、手を出すメリットが少なくなります。

代表的な抑止力は、核兵器を持っている国同士に働く「核抑止力」です。敵対国に核兵器を撃ち込んでも、同等の反撃を受け、被害を被ることになるならば、当然国内でも攻撃を踏みとどまるようにという世論が生まれやすくなります。

現在の日本は核兵器を持っていませんが、日米安保条約によって、「日本を侵略したら、アメリカから攻撃を受ける」ということになっているため、核大国からの侵略を免れています。

抑止力は、核抑止力に限りません。地域紛争のレベルでは、核兵器は通常使われないので、通常兵器による抑止が必要になります。

抑止力を働かせるためには、敵対国の攻撃に対し、反撃できる能力と意志があることを示す必要があります。つまり抑止力というのは、軍事力を示す「威嚇」によって成り立つのです。

(3)他国の侵略に対抗するための軍事力(拒否抵抗能力)

そして3つ目が、他国に軍事的恫喝や武力攻撃を受けた場合に、対抗する機能が「拒否抵抗機能」です。侵略にやってきた敵対国の兵力を取り除いて、侵略を防ぎ、押し返して独立を守るための軍事力です。これは、現在の日本の憲法9条の範囲内です。

ただし、仮に日本に突然他国から核ミサイルを撃ち込まれれば、一瞬にして数十万人、水爆の場合は数千万人が一瞬にして命を落とす恐れがあります。核兵器が配備されている時代には、「拒否抵抗能力」だけでは国民の命を守れるとは言えません。

日本は普通の国が持つ軍事力のごく一部しか持っていない

現在の日本国憲法では、第9条第1項において「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、同第2項では「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」としています。

「武力の行使を永久に放棄する」と表明している以上、「抑止力」としての軍事力は働いていないことになります。もちろん、他の国に何かを促す「強制外交」のための軍事力はありません。

もし、暴漢が武器を振りかざして人質を取った場合、素手の素人だけでは止めることはできません。暴漢に対して交渉を行う場合も、警察官や機動隊員が控えている必要があります。北朝鮮が日本人を拉致し、核兵器の開発を進めてミサイルを飛ばすなど、どんなに暴走していても、アメリカ頼みになっているのは、軍事力が不十分である上に、一部が「機能停止」しているからです。

しかし、アメリカにもさまざまな事情があります。10月には韓国の近海にアメリカの空母艦隊が展開する予定ですが、有事に際した場合に北朝鮮に対する軍事行動をどこまで行うかは、大統領の考えやアメリカ議会の議決、何より、アメリカの国益にかなうかによって変わります。

現時点では、日本は自分の国を守るために、アメリカの軍事力における「抑止力」「強制外交」の機能に頼るしかありません。ただ、この場をしのげたとしても、同様の事態が起これば、またもや他国の政治状況に振り回されることになります。日本が核装備を含めた軍事力を持つ必要があるのは、自分の国の行く末に自分で責任を持つためなのです。

もちろん、軍事力によって自国民を弾圧し、他国を侵略することもできます。しかし、多数の中から選ばれる政治家によって政治が行われる民主主義国家の軍事力と、選挙の自由も無く専制政治が行われ、政府に反対すると粛清や弾圧される独裁国家の軍事力とは、意味が異なります。

「悪を押しとどめる」という目的を持つ軍事力は、自国を守り、周辺の国を守ることになります。軍事力の背景に神仏の正義の探究が必要であるのは、言うまでもありません。

(河本晴恵)

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